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2020年08月07日 12:27

【ラスト50kmの攻防】長崎新幹線〈新鳥栖―武雄温泉〉の周辺を探る

 九州新幹線鹿児島ルートが2011年3月に開業し、西九州ルート(長崎新幹線)武雄温泉―長崎間が23年3月に続く。残る佐賀県区間の新鳥栖―武雄温泉が結合すると、山陽新幹線と併せ九州の新幹線鉄道網が完成する。ところが、ここにきて佐賀県と国交省が対立、着工のメドは立っていない。背景にあるのは何か。〈ラスト50km〉をめぐる攻防の周辺を探る。

「フル規格促進議員の会」に佐賀県議はゼロ

 7月31日。嬉野市の老舗旅館『和多屋別荘』で、西九州ルート(長崎新幹線)の開業を見据えた講演会が開かれた。

 講師は、佐賀県の地方議員有志でつくる「フル規格促進議員の会」の平原(ひらばる)嘉徳・佐賀市議。平原氏は、長崎新幹線への導入が計画されていた新在直通電車(フリーゲージトレイン)の開発見通しが厳しくなっていた2012年ごろから、フル規格新幹線(標準軌)新線の建設を訴えている。

 14年5月、促進議員の会の前身「九州新幹線西九州ルートのフル規格化に向けての世話人会準備会」が武雄市の中華料理店で開かれたものの、参加者は平原氏、田中政司嬉野市議(現・議長)、牟田勝浩武雄市議、江副康成鳥栖市議のわずか4人。しかも3人は新幹線駅がすでに設置または設置が決まった3市の市議。平原氏の地元佐賀市は走行ルートさえ決まっていない。

「ある人を介して、JR九州初代社長の石井孝之さんが自宅に訪ねてきました。『フリーゲージトレインの開発なんてできっこない。西九州ルートはフル規格じゃないと先に進みません。協力していただけませんか』と」(平原氏)

 石井氏は将来、長崎新幹線を経営するJR九州のトップだった人物。旧国鉄時代は、蒸気機関車の修理に始まり、ディーゼル車の車両設計や開発を手がけた生粋の鉄道技術者だった。平原氏は、その石井氏の話を信じた。以来、フル規格新幹線の“エバンジェリスト”(伝道者)になり切っている。

 フル規格促進議員の会は、その後、入会する地方議員が増えて、現在は48人に拡大した。駅舎が設置されない小城市や多久市、上峰町、みやき町などの地方議員も入っている。

 理事会を置き、正副会長、事務局長、理事、最高顧問、顧問、相談役、監査役のポストがある。最高顧問は自民党二階派で国鉄ОBの今村雅弘衆院議員(比例九州)。顧問は自民党の衆参議員4人、相談役に前JA全国農業協同組合長の中野吉實氏らが座る。

 ところが、ポストのどこにも自民党佐賀県議の名前が見当たらない。ここが、組織の“弱み”でもある。

「知事はウソをついている」平原氏

 講演会が開かれた7月31日は、未着工区間「新鳥栖―武雄温泉駅」の着工に必要な環境影響評価(環境アセスメント)の実施について、国交省が佐賀県の回答を求めた期限日でもあった。

 環境アセスをめぐっては、佐賀県の山口祥義知事が頑なに拒否。未着工区間の整備方式に関する国交省、与党整備新幹線検討委員会、長崎県、JR九州との協議に応じていなかった。そのなかで昨年12月、赤羽一嘉国交相(衆院兵庫2区)と会談、「幅広い協議」入りで合意した、

 それでも年が明けると、佐賀側は「幅広い協議」の進め方の確認を求める文書に固執。赤羽国交相は“時間稼ぎ”とみて不快感を表し、佐賀県は6月6日に協議入りを伝えた。

 さっそく、国交省は想定される5つの整備方式に対応する環境アセス実施というアイデアをまとめ、鉄道局長と知事の会談を打診。佐賀県が拒んだため、担当の幹線鉄道課長が地域交流部長にアイデアを説明し、あっさり受け入れを拒否された。

 特定の整備方式を決める前の複数アセス提案は、国交省にとっては「知恵を絞った妙手」だったが、佐賀県には「フル規格整備を進める便法」に映った。

 7月15日の事務レベル協議で佐賀県は再度拒否。国交省は再考を促し、7月31日までの回答を改めて求めていた。期限日当日、山口知事は記者団の囲み取材に「すでに回答した、との認識」と話し、国交省の確認電話に地域交流部長も「お受けできない」と伝えた。

「どうせ知事は拒否するでしょう。私たちは、(新幹線計画について)佐賀県の財政負担が知事が言うほど大きくないこと、一方ではまちづくりや観光振興、防災に大きく貢献する事実を地道に啓発していきます。知事はウソをついているので、まず正確な情報を県民の皆さんに知ってほしいのです」

 講演を終えた平原氏は淡々とそう話した。

「佐賀県フル規格促進議員の会」は、長崎新幹線のフル規格メリットを紹介する勉強会を開いて着工を求める。参加者は40人弱。左手奥が、講演する平原嘉徳佐賀市議=7月31日、佐賀県嬉野町の「和多屋別荘 コットンクラブ」

 

【南里 秀之】

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