2024年03月19日( 火 )

復活の道が見えない日産自動車の研究(1)

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早くも飛び出した内田誠社長の更迭説

 日産自動車(株)を新型コロナウイルスの感染拡大が直撃した。世界販売台数は半減し、2021年3月期の純損益が、2年連続となる6,700億円規模の赤字に陥る見通し。カルロス・ゴーン前会長が進めた拡大路線を修正する構造改革も停滞したまま。日産はどこへ向かうのか。6回にわけてレポートする。第1-2回は、早くも飛び出した内田誠社長兼最高経営責任者(CEO)(54)の更迭説を検証する。

ロイターが報じた内田社長の会長棚上げ説

 ロイター通信は7月17日、「日産自に『共同CEO』構想グプタ氏昇格へ水面下の動き」で次のように報じた。

 「抜本的な構造改革に向け新たな中期計画に着手した日産自動車で、アシュワニ・グブタ最高執行責任者(COO)を内田誠社長兼最高経営責任者(CEO)と並ぶ『共同CEO』に昇格させようという動きが強まっている。構造改革を実行するには内田社長のリーダシップは不十分で、計画の中心人物であるグプタ氏の権限強化が必要というのが理由だ」
 「同社内の議論に詳しい4人の関係者によると、グプタ氏の昇格はまだ取締役会の承認を得るに至っていないが、同氏を推す動きは日産の最高意思決定機関であるエグゼクティブ・コミツテイ(EC内)でも広がっている。今後の議論によっては、内田氏が会長になり、グプタ氏が単独のCEOに就任する可能性も『ゼロではない』(関係者)という」

 グプタ氏(49)はインド出身。ホンダ・インドから日産を経て仏ルノーに移り、購買事業の経験を経て小型商用車(LCV)に関する日産とルノーの協力関係を構築、19年4月に三菱自動車のCOOに就任し、昨年12月から日産ナンバー2のCOOとして内田CEOを支えた。

 日産の中期構造改革計画は、内田社長ではなくグプタ氏が陣頭指揮を取って策定した。グプタ氏が日産・仏ルノーのLCV改革を使った手法をもとに、日産の社外取締役でもあるジャンドミニク・スナール・ルノー会長(67)との緊密な議論を通じてまとめ上げたとされる。

 日産は5月28日、構造改革プランを発表した。しかし、同日記者会見した内田社長には、なんとしてでも日産を再建させるという熱意が感じられず、「内田氏は戦時のリーダーの器ではない」(自動車担当アナリスト)と突き放す見方があることが、内田社長の交代説が噴出してきた原因だ。

社長の解任や選任を決める「指名委員会」

 日産は19年6月の株主総会で、指名委員会等設置会社への移行を決めた。理由は、カルロス・ゴーン前会長による独裁体制からの脱却を目指し、社外取締役らによる「カバナンス改善特別委員会」から提案を受けたことだった。指名委員会、監査委員会、報酬委員会の3つの委員会が設置され、経営の執行と執行が明確化された。

 最大のポイントは、社外取締役で構成される指名委員会が社長である代表執行役をいつでも解職することができるシステムであるということだ。

 指名委員会委員には、株式の43%を出資するスナール・ルノー会長が就いた。日産社長の生殺与奪権を、スナール会長が握ったということである。

 指名委員会の初仕事は、西川廣人社長兼CEOの解任。西川氏が内規に反する報酬を得ていたことを口実に、昨年9月16日に引責辞任に追い込んだ。西川前社長は、反対を押し切って自ら推進した指名委員会設置会社という制度によってクビを切られるという皮肉な結果を招いた。指名委員会が設置される前ならば、いかに筆頭株主であるルノーが西川前社長の交代を望んでいても、簡単に辞任に追い込まれることはなかっただろう。

 百戦錬磨の経営者であるスノール会長のほうが、西川前社長よりも役者は一枚上手。自らは表面に出ず、指名委員会を使って、西川氏を葬り去ったのだ。

(つづく)

【森村 和男】

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