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2020年09月16日 07:00

激化する新型コロナ・ワクチンの開発競争:ワクチン外交の行方(2) 未来トレンド分析シリーズ 

国際政治経済学者 浜田 和幸

 しかし、強面のプーチン大統領は「ロシアにはウイルス研究20年の歴史がある。治験者の数は少なくても大丈夫」と“余裕しゃくしゃく”である。「ロシア直接投資ファンド」が5,400万ドルの開発費を投入し、その有効性を盛んに宣伝している。ロシア保健省では「全世界に提供する用意がある」とまで大風呂敷を広げる有り様だ。実際、この記者会見の影響は大きく、世界20カ国以上からすでに10億回分を超える注文が殺到しているという。

 なかでもフィリピンのドゥテルテ大統領は自ら「最初に投与をお願いしたい」と積極的な反応を見せている。フィリピンは東南アジア諸国のなかではもっとも感染状態が深刻で、ロックダウンを実施したにもかかわらず、感染の拡大が収まらない。

 そのためか、ドゥテルテ大統領曰く「ワクチンのサンプルが届き次第、自分が治験者の第一号になる。国民の見る前で投与を受けるつもりだ。自分に効けば、フィリピンの国民全員に効くはずだ。来年5月までにはフィリピンでの予防接種を実現したい」。驚くほど前向きで「プーチン大統領は自分にとってヒーローだ」とまで持ち上げている。国内の経済悪化による批判をかわすためにもワクチンによる体制強化を狙っているようだ。

 フィリピンの大統領府によれば、「ロシアはフィリピンでの試験的投与に関する費用を負担してくれる。10月から治験をはじめ、来年4月までには食品医薬品局のお墨付きも得られるだろう。そうすれば、フィリピンでもワクチンの共同製造が可能になる」とのこと。同じような動きは今後、他の地域でも加速しそうだ。実際、アラブ首長国連邦(UAE)、サウジアラビア、インド、ブラジルも治験に参加することを検討中という。

 実は、アメリカ政府が後押しし、オックスフォード大学やビル・ゲイツ財団が資金を提供するモデルナ社のワクチンの場合は3万人が参加する臨床試験が最終段階に入っている。また、トランプ大統領が熱心に資金援助を続けているノババックスやファイザーも3万人から4万人の治験者を対象にした第3段階の実験が佳境を迎えているといわれる。

 これらは「オペレーション・ワープ・スピード」と呼ばれ、トランプ大統領とすれば、11月3日の大統領選挙の投票日の直前には成果を公表したい「最重要プロジェクト」に他ならない。アメリカでは連日4万人の感染と1,000人の死者が報告されているからだ。トランプ大統領は「感染のピークは過ぎた。心配要らない。感染の不安を煽っているのは民主党だ」と責任転嫁にせわしないが、被害が拡大していることは間違いない。

 そのためもあってか、トランプ大統領は英国のアストラゼネカ社には12億ドルのワクチン開発資金を提供している。もちろん、アメリカの製薬メーカーにも同様に資金提供を行い、娘婿のクシュナー氏には国内のワクチン開発の調整役を任せている。そのうえで、特例的に承認を早める準備も進んでいた。

 しかし、「大統領選挙のために安全性を蔑ろにするのは如何なものか」との指摘も出ており、トランプ大統領のワクチン戦略は厳しい状況に直面している。とくに民主党のバイデン大統領候補とカマラ副大統領候補からは「トランプの勧めるワクチンは危険で、絶対に接種すべきではない」との発言が相次ぎ、国民の間でも猜疑心が広がっているようだ。

 困ったときの「イバンカ頼み」ではなかろうが、このところ大統領の長女イバンカが注目を集めている。なぜなら、「大統領に代わって、自分が最初にワクチンを接種する」とテレビ番組で宣言したからだ。それまで、トランプ大統領の発言は“ブレブレ”だった。「コロナウィルスなどは自然に消えてなくなる。マスクは弱虫の付けるもの。ワクチンは11月の頭には完成する。ただ、そのワクチンを接種するかどうかはわからない。国民が安全に接種し終わったら自分も受けるかも」といった具合だった。プーチン大統領もトランプ大統領も娘の力を借りて、ワクチンの安全性を国民に訴えるという共通の「親ばか」ぶりである。

 何しろ、ロシアの「スプートニクV」の場合はたった38人での治験である。プーチン大統領の娘が39人目になり、以下に紹介する貿易大臣が40人目となる。追加で行われた治験者も含め、76人が試験的に摂取を受けたといわれる。それにしても、あまりにも少ない治験データであることは懸念材料に違いない。ロシアでは9月9日から3万1,000人を対象にした第3段階の治験にようやく入るという。要は、効能や安全性を確認するために最終段階の実験の結果は現時点では不明というわけだ。

(つづく)

<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)

 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。

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