2024年04月24日( 水 )

【凡学一生のやさしい法律学】自民党総裁選余話~ユーミンのつぶやきをめぐる舌禍事件(前)

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 自民党総裁選の契機となった安倍総理大臣の辞任会見に関して、想像もしていなかった事件が発生した。事件の当事者2人に他意はまったくなく、両者ともまさかネットで炎上するという大波乱が起こるとは夢にも思っていなかったであろう。
 それは、有名歌手のユーミンの何気ない「つぶやき」が極めて重大な政治的効果を生み出すことに対して、有名な若手研究者・評論家の白井聡氏(京都精華大学専任講師)がつい我を忘れて過激な言葉で批判をしたことによる舌禍事件(故意の誤訳誤解事件)である。

 安倍総理大臣の辞任会見は周到に準備されており、「国政に全身を打ち込んできた政治家が激務の結果、無念の病を理由とした引退会見」という筋書きであった。以前には147日間1日も休まず政務に励んだとの情報も流され、国民の大多数は安倍総理大臣がコロナ感染対策を含め激務に服していたと思い込まされていた。

 しかし、国会に出席することこそ総理大臣の本来はたすべき重大な職責であるため、国会への出席も長らく拒否していたのは「激務」のせいであったと納得する人はまさかいないであろう。「147日間も休日をとることなく、国会への出席も拒否した正当な激務とは一体何だろうか」と考えるはずで、また「口だけ」の安倍総理大臣の猿芝居かと感じるのは小沢一郎議員のみではないはずだ。

 ところが、日本人なら知らない者がいないほどの有名歌手のユーミン(松任谷由美氏)が偶然にも安倍総理大臣と家族的交流関係にあり、その辞任会見に「ほろり」としたことを公表したところ、進歩的文化人と目される白井氏が「早く死んだほうがまし」という要旨のコメントを発表した。白井氏の胸中には恐らく、安倍総理大臣の度重なる「虚言」と実のない「弁解」や、森友事件公文書改ざん事件で無念の自死をした遺族の思いが去来し、決して安倍総理大臣が美談の主人公として引退することを認めないという激情が支配していたものと考えられる。

 このような政治状況に無知な有名歌手と政治の裏表を知る学者のある意味「それだけのこと」として終わるべき一過性のやりとりが報道で大きく取り上げられた「不思議さ」の原因は、日本の報道事情と感情のみに支配された無責任言論(故意の誤訳)の横行にあり、今後も注意が必要だと考えられる。

 白井氏が安倍政権に批判的人物であったために、安倍シンパのネット民からバッシングを受けた。社会現象として客観的に報道するならば、両者の発言に至った経緯を細かく分析して、文脈上、両者にはまったく政治的意図も悪意も無かったことをまず報道すべきではなかったか。

 日本では発言者の真意を示す文脈を無視して、一部の表現の一般的な意味を故意に強調して攻撃する悪質な論評が横行している。以前に北朝鮮の国家犯罪行為としての拉致犯罪が公になったとき、長くわが子の帰りを待つ年老いた母が「子どもを取り返すには戦争しかない」と発言したが、子を思う母の気持ちを理解する国民は誰もその発言の過激さを非難することはなかった。

(つづく)

(後)

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