2024年03月29日( 金 )

生命は火星からきた?微生物なら火星-地球間移動できる説が有力

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火星-地球間の宇宙旅行は過酷?

 地球上の生きものが誕生したのは、地球以外の他の星でかもしれない。国際宇宙ステーション(ISS)での実験結果により、微生物であれば火星から地球までの宇宙空間を移動できるという説がまた一歩有力となった。

国際宇宙ステーション(ISS)から見た地球上空
(出典:NASA)

 地球上の生命の起源は、最大の謎の1つでもある。宇宙は過酷な環境であり、空気がなく、地球より乾燥していて、放射線や紫外線も強く、温度変化も激しい。しかし、海底温泉の120℃を超える過酷な環境でも生きられる微生物にとっては、案外そうでもないようだ。国際宇宙ステーションで、微生物の宇宙空間での3年間の生存可否を調べる「たんぽぽ計画」を行った共同研究グループの東京薬科大学・国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)の山岸明彦名誉教授は、「放射線に強い耐性をもつ微生物にとって、火星から地球への宇宙旅行の壁となるのは紫外線」と話す。

東京薬科大学
国立研究開発法人
宇宙航空研究開発機構(JAXA)の
山岸明彦名誉教授

 しかし、高度20~30kmの飛行機や飛行船上など、紫外線が強い上空の環境でも生きられる微生物が見つかっている。「火星―地球間の宇宙旅行ができるほど、紫外線に強い微生物もいるかもしれない」という疑問から、この実験が始まった。

 国際宇宙ステーションの実験結果より、ガンマ線滅菌した缶詰から見つかった微生物(Deinococcus radiodurans/デイノコッカス・ラジオデュランス)が、紫外線下でも数年間生き続けられることが判明。自然現象での火星と地球の行き来には通常数千万年かかるが、軌道によっては数カ月~数年で移動することもある。山岸氏は「微生物が紫外線下で数年間生きられるなら、理論上は火星から地球への移動はほぼ可能だ」と話す。

 2022年から26年にかけて月の近くで有人宇宙ステーション「ゲートウェイ」が建設される予定のため、放射線に強い微生物が月の近くの放射線の強い環境でも長期間生存できることを検証する実験も検討を始めているという。

火星探査計画~宇宙人を探せ!

火星
JAXAは火星に探査機を送る計画を検討している

 宇宙SFものでは火星人がよく登場するが、現実には火星の生きもの探しは困難が多い。米国NASAが7月30日に探査機を打ち上げた「マーズ2020」は、21年2月18日に探査機が火星のジェゼロクレーターに到着し、その後、火星の土や岩石のサンプルを地球にもち帰って生命の痕跡がないかを調べる予定だ。

 JAXAは火星に探査機を送る計画を検討しており、山岸氏は「火星独自の生きものが見つかればうれしいと期待している」と話す。また日本では、探査機に載せることができる光学蛍光顕微鏡の開発も進んでおり、この顕微鏡で調べることで生きものの痕跡になる有機物(タンパク質などの炭素を含む化合物)や生きものの細胞を見つけられることを目指す。

 太陽系外の生命探査も進んでいる。地球に似た大きさで水がありそうな惑星が10個以上も見つかり、生命が暮らす可能性を見極める手がかりとして、酸素や植物の緑、電波発信の有無などの調査が検討されている。

 スマホが電波を使って通信するように、「もしほかの惑星に生命がいるなら、電波を使っているはずだ」という仮説のもと、世界10カ国以上が参加するSKA(エスケーエー)の計画では、オーストラリアと南アフリカで宇宙からの電波をキャッチするための小さいものも含めて数百万台以上の電波望遠鏡の建設が始まっている(運用は23年予定)。

生命誕生の地は海ではなかった?

 山岸氏は、「生命は海で誕生したという説が有名だが、最初の生命と考えられるRNA生物()は遺伝子をつくるために乾燥した環境が必要なため、生命が生まれたのは陸地ではないか。温泉やクレーターなどの、乾いたり湿ったりする場所がちょうどいい。昔の火星は地表面の約30%が海で残りが陸地だったため、海が多い地球よりも火星のほうが生命の誕生しやすい場所だったかもしれない」と話す。

 さらに「昔の金星でも、生命が誕生した可能性はある。地表温度が今の約400℃よりも低く、海もあったと言われているためだ」(山岸氏)。今後の宇宙探査の結果による新たな発見が待たれる。

【石井 ゆかり】

※:糖、リン酸、4種類の塩基からなるRNAでできた遺伝子をもつ生きもの。 ^

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