2024年04月25日( 木 )

別府市の耐震偽装マンション、耐震偽装が原因か? 異常に低い競売基準価格(後)

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 構造設計一級建築士 仲盛昭二氏が所有する大分県別府市の分譲マンション「ラ・ポート別府」について、1階柱脚の鉄量不足など構造設計の偽装があったことは当ニュースサイトNetIB-Newsで報じた。このラ・ポート別府の一室の競売情報が編集部に寄せられた。

マンション販売会社側の確認作業は、わずかな時間で可能

 耐震偽装マンションが建築基準法令違反で耐震強度不足という状態である点は、偽装や改ざんをした設計図書により建築確認済証の交付を受けたマンション販売業者に一義的な責任があることは明白である。マンション販売会社は、自らの偽装の責任を行政庁などの確認検査機関に押し付けているのが実態であるため、区分所有者は、分譲業者に対して建物を適法な状態に戻すよう要求をすべきである。

 マンション販売会社が「設計は適法である」と主張するのであれば、設計図書の該当箇所をコピーし提示するのみの簡単な作業であり、それは10分もあれば可能だ。このような簡単な作業さえ拒否するようであれば、マンション販売会社は偽装を認識していたと考えられる。

耐震偽装が判明し、資産価値が低下

 耐震偽装(建築基準法令違反・耐震強度不足)が発覚したことによりラ・ポート別府の資産価値が下がれば、当然、このマンションの区分所有者であり耐震偽装を指摘した仲盛氏が所有する部屋についても資産価値が大幅に下落していることになる。しかし、仲盛氏は語る。

 私がラ・ポート別府の設計の偽装・耐震強度を明らかにしたことにより、私の所有する部屋を含めて、このマンションの資産価値は大幅に下がりました。住人の中には「仲盛が余計なこと言うからマンションの価値が下がった」と面と向かって私に苦情を言われた方もいます。

 しかし、私が偽装を指摘したから耐震強度不足なったのではありません。私が指摘する以前から「建築基準法令違反・耐震強度不足」という事実は存在していたのです。

 「もう29年以上も経っているから、今さら建て替えや補強などしなくてもいい」という意見もあると考えていますが、大地震が発生して倒壊するようなことがあれば、ラ・ポート別府の損害だけの問題ではなく、隣接する建物や前面道路を通行している人や車にも被害を与えてしまうのです。そうなれば、ラ・ポート別府の区分所有者は「加害者」の立場となり、大きな賠償を背負うことになります。賠償金は積立金では不足するでしょうから、区分所有者が負担することになり、各自が 住居を失った上に膨大な借金を背負うことになるのです。

 現時点では、どの区分所有者も、このような事態は想定していないと考えていますが、私が指摘していなければ、耐震強度不足という事実を隠して売却されていたかもしれません。耐震強度不足を知らずに購入した方は大変な損害を受け、事実を隠して売却した売り主は詐欺的行為として、買主から訴えられます。

 私自身も 所有するマンションの資産価値が下落することは、歓迎すべきことではありません。しかし、設計の偽装の事実を知った以上、これを隠すことはできません。また、大分県内に、同様に偽装が見逃された建物が多数存在している可能性が高く、これらについても検証や是正を行わなければならないため、自分のマンションの資産価値の下落を覚悟してまで、マンションの耐震偽装を指摘しているのです。

 15年前に耐震偽装事件である姉歯事件が起き、その後、国土交通省は全国の自治体に対して、既に建築確認を受けて建設されている建築物(特にマンション)の構造計算書を検証するよう指示を出しました。指示を受けた自治体では、多くの設計者・構造技術者の協力を得て検証を進め、適法性や安全性を確認できた建物に関しては、自治体がその旨の通知書を発行するなどして建物所有者に通知をしました。

 しかし、この時の検証において、今回私が指摘したような偽装が見逃されていたため、今になって、偽装が発覚しているのです。ラ・ポート別府だけではなく、福岡県内のマンションにおいても、10数年前の構造検証による安全通知を受けていながら、最近になって偽装が発覚したマンションがいくつもあります。つまり、国交省の指示により自治体が行った構造検証は無意味だったばかりか、構造検証自体が「偽装」だったといえます。

 私が自分のマンションの資産価値が下落することを厭わずに、耐震偽装を指摘している理由は、前述のように、マンションの近隣住民たちに被害が出ることを避けたいことのほかに、大分県が建築確認済証を交付した建物の中に、ラ・ポート別府と同様に設計の偽装が見逃された建物が高い確率で存在しているため、それらの建物についても是正をするよう警鐘を鳴らすことを目的としています。

 例えば、船の航路の水面下に岩が隠れていて 船が座礁する危険性があれば、当然、船長に知らせるはずです。危険を回避しなければ乗船している自分自身にも命の危険が及びます。同じように、私は自分が所有するマンションが倒壊し、近隣の住民に対して加害者となることは避けたいと考えています。そのため、自分のマンションの資産価値が下落することを覚悟の上で指摘しているのです。

 大分県民の皆さんは、まだ、この恐ろしい事実に気づいていません。自分のことを犠牲にしてでも、誰かが声を上げなければならないのです。大分県の多くの建物に耐震偽装が潜んでいる事実を知った私には その使命があると考え、偽装の事実を指摘しました。これを知った大分県民の方が、建物を適法にするための行動を起こされることを願っています。

 

最も弱い1階が崩壊したと想定したCG

(了)

【桑野 健介】

(中)

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