2024年05月06日( 月 )

別府市の耐震偽装マンション、耐震偽装が原因か? 異常に低い競売基準価格(中)

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 構造設計一級建築士 仲盛昭二氏が所有する大分県別府市の分譲マンション「ラ・ポート別府」について、1階柱脚の鉄量不足など構造設計の偽装があったことは当ニュースサイトNetIB-Newsで報じた。このラ・ポート別府の一室の競売情報が編集部に寄せられた。

建築確認を行った特定行政庁大分県への質問

 仲盛氏は自身が所有している「ラ・ポート別府」の設計が偽装されており、耐震強度が不足していることについて、大分県知事に下記の質問書を送付した。

(大分県 広瀬知事あての質問書の抜粋)

大分県知事 広瀬勝貞様
 別府市の分譲マンション「ラ・ポート別府」には以下の耐震偽装が判明しています。
(1)階鉄骨柱脚が非埋め込み形柱脚である
(2)柱脚の鉄量が規定量(柱頭の鉄量と同等以上)より60%も不足
(3)耐力壁を有する架構において、耐震壁方向に有効な鉄骨が配置されていない

(中略)

 マンションは 大分県による建築確認を受けています。つきましては、本マンション区分所有者のために、大分県が本マンションの構造上の法適合性と耐震上の安全性を確認した根拠を示し、説明をお願いできないでしょうか?

 上記の質問に対して、大分県知事からは下記の回答が返ってきた。

(大分県建築住宅部長からの回答)

 「建築確認申請書類は保存年限を過ぎており残っていないが、当時、建築確認済証及び完了検査済証を交付していることから、建築確認申請時の基準は満たしていたものと考える」。
(別府市建築指導課長からの回答)
 「大分県より引き継いだ台帳にて、確認申請及び完了検査が行われた履歴は確認できる」。

偽装を想定していない建築確認制度

 大分県の回答には「建築確認申請書類は保存年限を過ぎており残っていない。建築確認済証および完了検査済証を交付していることから、建築確認申請時の基準は満たしていた」とある。耐震偽装問題について、行政庁やマンション販売業者は、いつも上記のような言葉で正論に見せかけて逃げるのである。

 「設計において耐震偽装された建物に対して建築確認済証や検査済証が交付されたのはなぜなのか?」「建築確認の審査において偽装は見抜けないのか?」という疑問が生じる。

 建築確認の審査において設計の偽装を見つけられない理由は、建築確認が性善説で行われているからである。そもそも、「姉歯事件」が発生する前の建築確認制度や建築基準関係規定は、設計の偽装など悪意に基づく確認申請を想定していない(性善説)。

 なぜ、建築確認が性善説で行われていたのか。建築確認申請者は建築主であるが、一般的には建築士が委任を受け、申請手続きを代行する。建築士は、一級・二級・木造と種類があるが、いずれも国家試験に合格した者であるため、一定の技術水準と倫理観を持ち合わせているmものと理解されている。

 仮に、建築士が違法な行為を行った場合には罰則を受けるため、法令規準を遵守することは当然である。このような前提であるため、設計の偽装が発覚したとしても、建築確認を行った行政庁の責任は問われず、設計者や建築主(マンションであれば販売業者)の責任となる場合が多い。従って、「建築確認をもっと厳しくすべきだ」という声はあるものの、交付された確認済証自体は手続上有効である。ただし、完了検査は設計図通りに施工されているかを検査することから、検査済証は違法建築物をそのまま証明したものであり、設計の適法性を証明した書類ではない。

豊洲市場の裁判でも、東京都は建築確認の妥当性を主張

 (株)日建設計の偽装を原因とした「建築基準法令違反・耐震強度不足」をめぐり争われていた「東京都豊洲市場水産仲卸売場棟」に関する裁判では、東京都も日建設計も「計画通知(民間における確認済証と同じ)や検査済証が交付されているから適法」と主張している。この主張は東京地裁も認めており、設計の偽装の有無にかかわらず、特定行政庁や確認検査機関による建築確認自体は、法的に問題がないことが示されている。

(つづく)

【桑野 健介】

(前)
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