2024年04月29日( 月 )

別府市の耐震偽装マンション、耐震偽装が原因か? 異常に低い競売基準価格(前)

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 構造設計一級建築士 仲盛昭二氏が所有する大分県別府市の分譲マンション「ラ・ポート別府」について、1階柱脚の鉄量不足など構造設計の偽装があったことは当ニュースサイトNetIB-Newsで報じた。このラ・ポート別府の一室の競売情報が編集部に寄せられた。

ラ・ポート別府の競売

 耐震偽装による耐震強度不足が明らかとなっている「ラ・ポート別府」において、競売が始まっている(以前の記事の仲盛氏所有の住戸とは別の部屋)。

 区分所有者に届いた競売の基準価格通知には「289万2,000円」と記載されている。売買されていた実勢価格2,500~3,000万円の10分の1程度となっている。これは、耐震強度不足が判明したことが反映された競売基準価格であることは間違いないであろう。

 このマンション「ラ・ポート別府」の耐震偽装を、もう一度振り返ってみたい。

鉄筋量60%不足の耐震偽装マンションの詳細は下記に後述

(1)1階鉄骨柱脚が非埋め込み形柱脚である
(2)柱脚の鉄量が規定量(柱頭の鉄量と同等以上)より60%も不足
(3)耐力壁を有する架構において、耐震壁方向に有効な鉄骨が配置されていない

 以上3点を考慮した構造計算が行われておらず、耐震強度が不足した状態となっており、解体・建て替えを要する違法建築であることが判明。

 このマンションは鉄骨鉄筋コンクリート造であり、以下の点が判明している。

<ラ・ポート別府>
所在地:大分県別府市若草町4番3号
鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)11階建て
総戸数42戸+2店舗
平成3年(1991年)7月築(築後29年3ヶ月)
建築主:太平産業(株)
設計:松井建築事務所
施工:(株)さとうベネック

(2)耐震壁方向(T型:6本、I型:12本)

12本/18本=2階より上階および全階の鉄骨柱 耐震壁方向に鉄骨配置なし。

 ※非埋め込み形柱を考慮したDsにより構造計算が行われているとは考えられない。
 また、耐震壁方向に有効な鉄骨が存在しない(単材)ことを考慮した計算もなされていないと思われる。

「Ds」の説明

 震度6強程度の地震を想定した保有水平耐力計算(二次設計)における必要保有水平耐力(「Qun」建物に必要とされる耐力)を算出する際の係数の一つ「構造特性係数」がDsである。(下記の式)

Qu/Qun=1.0以上で安全
 Qu  :保有水平耐力(建物が持っている耐力)
 Qun:必要保有水平耐力(建物に必要とされている耐力)

Qun=Qud×Fes×Ds
 Qud:地震によって生じる各階の水平力  
 Fes :形状係数→建物の剛性の平面的及び立体的偏りに応じた係数
 Ds  :構造特性係数→建物のしなやかさに応じた係数

 SRC造で、柱脚が埋め込み形であれば、Dsを0.05低減することができるが、非埋め込み形柱脚の場合は低減できないので、結果的に、1階のDs値は上階よりも「0.05」高い厳しい数値としなければならない(耐震強度が不足している設計である)。

(2007年版 建築物の構造関係技術基準解説書 384頁より)

(2) 鉄骨を非埋め込み柱脚とする場合で、その脚部に曲げ降伏が発生する場合は良好な曲げ靭性が得られるとは言い難いため、その柱を鉄筋コンクリート造とみなしてDsを算定する。

(3)柱脚の鉄量

 もっとも鉄量が不足している柱C5の場合、規定よりも60%も鉄量が不足している。

 1階柱脚の鉄量が60%も不足していれば、地震が発生した場合、もっとも弱い1階柱脚部分(足元)が崩壊し、建物全体の崩壊につながる。このマンションが倒壊すれば、前面道路の歩行者や向かい側のマンション住人にも危害を与え、区分所有者は加害者の立場となる。1日も早くマンションの構造を是正し、危険を取り除くべきである。

(つづく)

【桑野 健介】

(中)

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