2024年04月20日( 土 )

【凡学一生の優しい法律学】日本学術会議推薦無視事件(2)

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2. 高橋氏の詭弁

(1)10月5日付「早急民営化主張論文」

 菅総理大臣による学術会議の推薦権無視が大論争となっている最中に、高橋氏が早急な「民営化」を主張する論文を発表したことは明らかに世論の論点をずらすためである。論文の趣旨は、前半でデマに近い噂話程度の根拠で学術会議を批判し、後半でその批判から政府の実質的任命権で学術会議を統制するのは当然で、学術会議が反対するなら民営化するしかないというものであった。

 何のことはない。菅総理大臣の「推薦無視」を正当化し、実質的任命権を正当化する論文であり、羊頭狗肉(※)という熟語を彷彿とさせるものである。正確を期すため、高橋氏の論文のなかで問題となる後半部分(結論部分)の全文を下記に掲載し、正確にその詭弁性を明らかにする。

※ 立派な見かけに実質が伴わないこと。

(2)結論部分

「任命権」の問題も大きい

 では、1983年の国会での政府答弁からみてどうか。日本学術会議の推薦があるのに任命しなければいけないのか。裁量的人事をしないという国会答弁は、日本学術会議の行動が適切との前提での当面の法運用指針である。

 条文を読めば、裁量的な任命権がある。しかも、日本学術会議の実態が不適切になれば、条文通りの任命権を行使しないと不味い。実際、政府は事情変更により83年の国会答弁を修正したのだろう。それは可能だし、そうせざるを得ないのは、上に挙げた日本学術会議の不適切事例を見れば納得できる。

 もっとも、政府の人事である以上、任命しなかった理由を明らかにできない。これは、どのような組織であれ、人事であればその理由を明らかにできないのと同じだ。この問題について、抜本的な解決を図ろうとすれば、日本学術会議を政府機関として置くことが適切でなくなるはずだ。

 2003年に、日本学術会議の設置形態については「10年以内に欧米主要国のアカデミーの方向で再検討することになっている」から、この際、政府として検討したらいいだろう。

あまりに虫がよすぎる主張

 それは、もちろん国の機関ではなく、国から独立した法人格の団体である。なお、こうした方向の設置形態の改革は、一般的に「民営化」といわれているものだ。日本学術会議が「民営化」すれば、その会員は国家公務員でなくなるので、首相による任命権はなくなるので、今回のような問題はない。今の時代、国に提言するために、国の機関である必要はない。実際に、民間会社のシンクタンクは数多くある。

 「国の機関でいたい、国に全額費用してほしい、国家公務員のままでいたい、しかし人事は自分たちで勝手にやらせてほしい」というのが、今回の日本学術会議の主張であり、あまりに虫がよすぎる。欧米主要国のアカデミーのように「民営化」すれば、人事は自分たちに勝手にでき、国にとやかくいわれることはないので、そうしたらいいのではないか。

高橋 洋一(経済学者)

(つづく)

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