2024年04月30日( 火 )

積水ハウス「地面師」事件の総括検証報告書を読む~和田前会長と阿部会長の対立の原因となった経営責任は不問に付す(前)

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 積水ハウス(株)は12月7日、2017年に起きた東京・五反田のマンション用地の詐欺事件をめぐり、外部の弁護士による総括検証報告書を公表した。外部専門家による事件の検証の公表は今回が初めてだ。事件をめぐり社外監査役と社外取締役による調査報告書を全文公表しなかったことが問題視された。詐欺事件で起訴された犯人グループ全員に有罪判決が出たのを受け、弁護士3人で構成する「総括検証委員会」を設置し、報告を受けた。

積水ハウスを騙した地面師10人に有罪判決

 積水ハウスが被害に遭った「地面師」事件の主導役の1人とされ、詐欺罪などに問われたカミンスカス操被告の判決が6月10日、東京地裁で行われた。守下実裁判長は「事件の中心的存在で、少なくとも1億円の分け前を得た」と述べ、懲役11年(求刑懲役14年)を言い渡した。

 判決によると、カミンスカス被告らは17年3~6月にかけて、東京都品川区の旅館跡地について、偽造パスポートを使って地主に成り済まし、積水ハウスと売買契約を締結。小切手など計55億5,000万円をだまし取るなどした。

 事件では10人が起訴され、これまでに主犯格のカミンスカス被告以外の9人はいずれも1審で有罪判決が言い渡され、一部は有罪が確定している。

解任された和田前会長が反撃に出る

 地面師詐欺事件をめぐり、18年に解任された積水ハウスの和田勇・前会長が2月17日、都内で記者会見を開き、4月下旬の株主総会に、自身を含む11人の取締役候補の選任を求める株主提案を会社側に提出したことを明らかにした。

 積水ハウスの取締役任期は2年間で、4月の株主総会は改選期にあたる。狙いは、和田氏を解任した阿部俊則会長(当時、社長)、仲井嘉浩社長(当時、常務執行役員)ら現経営陣の追放である。

 積水ハウスは17年、東京・五反田のマンション用地取引をめぐり、詐欺師が所有者になりすます地面師詐欺事件で約55億円をだまし取られた。18年1月、事件の責任が当時の阿部社長にあるとして会長だった和田氏が阿部社長の解任動議を出したところ、逆に阿部社長に和田会長の解任動議を出される返り討ちに遭い、和田氏はその座を追われた。

 和田氏が反撃に出た根拠とされる書類が、事件の「調査報告書」だ。積水ハウスの社外取締役らかなる調査対策委員会がまとめたこの報告書を、会社側は全文を公開せず、マスコミが取材を通じて、断片的に報じた。

 それによると、調査報告書では、業務執行責任の最高位であった当時の阿部社長について「取引の全体像を把握せず、重大なリスクを認識できなかったことは、経営上、重い責任がある」と指摘している。

 この調査報告書を受けて開かれた人事・報酬委員会では、責任を取るために阿部氏らの退任が妥当とされたにもかかわらず、阿部氏は逆に和田氏を追放。和田氏は、阿部氏は自らが続投するために不都合な調査報告書を開示せず隠蔽していると主張する。

 この調査報告書は、阿部氏の責任に触れた後に、こう記されているという。「代表取締役会長(和田氏を指す)も、このような事態が発生したことに責任がある」。

 両氏の攻防は、どうなったのだろうか。

 積水ハウスが4月23日に開催した定時株主総会で、阿部会長の取締役再任の賛成比率は69.27%だった。地面師事件の責任問題など株主の批判も根強く、前回の改選期だった18年の総会と同様に約3割の株主が反対した。

 一方、経営陣刷新を求め、取締役への復帰を提案した和田前会長への賛成は6.13%にとどまった。和田氏の返り咲きに株主らは「ノー」を突き付けた。和田氏の完敗である。

(つづく)

【森村 和男】

(中)

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