2024年04月27日( 土 )

積水ハウス「地面師」事件の総括検証報告書を読む~和田前会長と阿部会長の対立の原因となった経営責任は不問に付す(後)

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 積水ハウス(株)は12月7日、2017年に起きた東京・五反田のマンション用地の詐欺事件をめぐり、外部の弁護士による総括検証報告書を公表した。外部専門家による事件の検証の公表は今回が初めてだ。事件をめぐり社外監査役と社外取締役による調査報告書を全文公表しなかったことが問題視された。詐欺事件で起訴された犯人グループ全員に有罪判決が出たのを受け、弁護士3人で構成する「総括検証委員会」を設置し、報告を受けた。

地面師詐欺事件を招いた3つの原因

 検証報告書は、絶好のマンション用地を好条件で入手できる機会に、マンション事業本部および東京マンション事業部が前のめりになり、本人確認を行った東京マンション事業部、取引をチェックする立場にあるはずのマンション事業部、稟議手続を担当する不動産部、回付先である法務部、経営企画部、経理理財部も、物件特性を踏まえた審査を行ったとは認められないと指摘した。社内では、取引を懸念する声はあったが、「契約を妨害するための嫌がらせの書面」と判断したのだ。

 検証報告書は、事件の原因として、下記の3つを挙げた。

 (1)縦割り意識の強さ。本社またはほか部門の干渉を嫌い、トップダウンの意思決定に異議を唱えにくい縦割りの企業風土。
 (2)牽制機能の弱さ。牽制権限の不明瞭さ、牽制する職責への自覚の欠如、牽制するための専門性の欠如。
 (3)リスク意識の低さ。リスク意識を高めるための方策の不足。 

主要役員の経営責任は問わない

 2018年の報告書は、主要役員4名(稲垣副社長、内田専務、仲井常務および内山常務)および業務執行責任者(阿部社長)の責任について分析し、いずれについても責任があるとの結論を記載している。これが和田前会長と阿部会長の対立に発展した。検証報告書はどう記載しているか。

 2018年報告書がここで指摘しているこれらの役員の責任というものが法的責任を意味するのか、道義的責任を意味するのかも明らかではない。仮に前者であれば、取締役として任務懈怠に該当するとの評価が明らかにされておらず、責任を議論する前提が欠けている。単に「審査が不十分であった」「最後の砦である」というだけでは、法的責任の根拠たり得ない。

 道義的責任や経営責任という観点での指摘であったとしても、本件取引事故は積水ハウスないしその関係者が引き起こした不祥事事案ではなく、地面師グループによる詐欺被害を防止し得なかったという事案である。

 被害を防止し得なかった原因は、積水ハウスの当時の稟議システム、社内環境や内部統制、あるいはリスク意識の希薄さといった点に認められるのであって、一部の業務執行取締役のみ重い責任を問われるようなものではなく、過去から本件事故まで積水ハウスの経営にあたった者の共通の問題である。

 こう述べて、主要役員4名と業務執行責任者の責任論を退けた。

 18年の調査報告書は、阿部氏の経営責任に言及していたため、全面公表を封印し、今回の検証報告書は、経営責任を問うていなかったことから、全文公開に踏み切った。極めてわかりやすい。しかし、カバナンス(企業統治)の観点から、「経営責任なし」といえるのか、首を傾げる向きは多かろう。

(了)

【森村 和男】

(中)

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