2024年05月03日( 金 )

中国経済新聞に学ぶ~アリババの未来、なお不透明だ

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 中国電子商取引の最大手であるアリババグループ創業者の馬雲(ジャック・マー)氏にとって、「口は災いのもと」をまさに痛感すべき結果になった。

 中国の起業家としてもっとも華やかな存在であるマー氏は10月24日、銀行界の大物や金融監督当局や政府の要人が出席した上海の会合で、金融監督当局や銀行を公然と批判。

 マー氏は、「中国の金融は未熟」で「銀行は考えが古い」ため、「イノベーションが必要」だと説いた。そのうえで、中国は「管理能力は強いが、監督能力が欠乏している」「昨日の方法では未来は管理できない」として、古い規制で新しい取り組みを縛るとイノベーションは生まれないという考えを示した。

 筆者が注目したのは、マー氏は「バーゼル合意は老人クラブのようなものだ」といい、多くの国で導入され、中国でも採用されている銀行規制を批判した点だ。バーゼル合意は、ヨーロッパでは金融デジタル化といったイノベーションの足かせとなっており、中国には合わないとも述べている。中国の銀行はまるで、「質屋」程度の感覚で営業していると率直に意見した。

 しかし、この発言がきっかけとなり、最終的にはアリババ傘下の電子決済サービス「アリペイ」を運営するアント・グループ(以下、アント)の上場が一時延期される事態へと発展した、とロイターが取材した政府当局者や企業幹部、投資家らは口をそろえる。

 ロイターの報道によると、マー氏が批判を浴びせた金融監督当局の人々は感情を害し、マー氏が1代で築き上げた「金融帝国」の頭を抑える作業に乗り出した。そのハイライトが11月3日に発表されたアントの上場延期だった。予定では、アントは5日に上海と香港で新規株式公開(IPO)を実施し、370億ドル(約3兆8,300億円)を調達することになっていたのだ。

 マー氏は自分の言葉がどんな影響をおよぼし得るかということをきちんと認識していなかった可能性があるが、2人の関係者の話では、マー氏に近い人々は用意されたスピーチの内容を事前に知って困惑し、金融監督当局のお偉方が来場する以上、もっと穏当な内容にすべきだと提案していたという。ところが、マー氏はそれを断り、自分は言いたいことをいえるはずだと信じている様子だったという。

 関係者の1人は「ジャックはジャックだ。思いの丈を口にしたかっただけだ」と話してマー氏の気持ちを代弁した。しかし、これはマー氏の計算違いであり、とんでもなく大きな代償がマー氏を待ち受けていた。金融監督当局の複数の高官は、マー氏の批判に憤激し、「顔面をひっぱたかれた」ような発言だった、という怒りの声もあったという。

 関係者2人によると、規制当局は、アントがオンライン融資サービス「花唄」を含むデジタル金融商品を使って、若者や貧困層に借金の拡大を促してきたなどと記した報告書の作成に着手した。一方で国務院弁公庁は、マー氏の発言に対する「一般国民の見方」を報告書にまとめ、政治指導部に提出した。そのなかにはマー氏と彼の発言に世論は否定的だとした報告もあったという。

 政治指導部は、この問題への関与を強め、アントの事業活動を徹底調査するよう指示した。これがIPO延期につながったというのだ。

 もう1つの理由が金融界の「巨象」へと爆発的な成長を遂げたアントに金融監督当局が抱く恐れだ。スマホ決済「支付宝(アリペイ)」の過去1年の利用額は118兆元(約1877兆円)にのぼる。単純比較はできないが、その規模は現金の流通量(約8兆2,000億元)の14倍におよび、指導部が開発を進めるデジタル人民元の普及の妨げになりかねない。

 アントは銀行への融資の紹介、信用評価の提供を稼ぎ頭にしている。ある銀行は「アントに支払う手数料は利息収入の15%」と打ち明ける。より高いケースも多いとみられ、金融監督当局は、既存の金融秩序を脅かしかねないと警戒する。


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