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2021年01月13日 15:41

エズラ・ヴォーゲル氏の『ジャパン・アズ・ナンバーワン』を考察~ライシャワー駐日大使はなぜ「発禁せよ」と警告したのか(後)

 『ジャパン・アズ・ナンバーワン』が大ベストセラーとなったハーバート大名誉教授のエズラ・ヴォーゲル氏が、2020年12月20日に90歳で亡くなった。各メディアは一斉にヴォーゲル氏の評伝を掲載した。親日派のライシャワー駐日大使が、同書について「日本人が傲慢になるから、日本では発禁にした方がいい」と評したのは有名な話だ。なぜ、発禁を唱えたのか。

ヴォーゲル教授が日本的経営の解体のシナリオを描く

 ヴォーゲル教授は、日本的経営を礼賛するために『ジャパン・アズ・ナンバーワン』を著したわけではない。「米国への教訓」とあるように米ソ冷戦が消耗戦であり、競争力を失い意気消沈した米国人に、日本の社会を分析し、米国はその長所から学ぶべきだと説いた。それが経済大国となったタイミングで日本人の自尊心をくすぐり、日本でベスセラーになったのは、本人にも予想外だったことだろう。

 ヴォーゲル教授は、米国の対日政策で重要な役割を担う。1993年にクリントン政権が誕生し、ホワイトハウスにまず設けたのが「経済安全保障会議(ESC)」である。クリントン大統領は、米ソ冷戦でしのぎを削っている間に、漁夫の利をむさぼったのは日本とドイツであると認識し、日独、とくに日本を「経済仮想敵国」として、猛然と戦いに挑んだ。 

 クリントン政権がESCを置いたのは、日独の経済を弱体させるためのシナリオを描くことだった。ヴォーゲル教授は、東アジア担当の情報館として、対日政策を立案した。日本の傲慢さと脆弱性を見抜いているヴォーゲル教授だったため、クリントン大統領は任命した。

米国による日本大改造計画

 米国による日本大改造計画。それを象徴しているのが「年次改革要望書」だ。93年のクリントン大統領と宮澤喜一首相との会談で始まった。毎年秋に、政治・経済の在り方について、米国が注文をつける。その注文にそって、日本政府がその実施方針を検討し、実行に移していく。その実行状況を米国政府が総括し、翌年春、その成果を米国議会に報告する。まるで、上司からノルマを課せられた部下が、その遂行状況を点検されるようなものだ。このようなシステムをつくることを首脳会談で合意した。

 「年次改革要望書」は、規制撤廃、自由化、公共部門の解体解放、独禁法改正や時価会計導入などなど。さまざまな要望がつきつけられて、それらが実現していった。郵政民営化も、このシステムを通じて要求された。金融機関の不良債権処理も米国の要求に基づく。金融界は突然、不祥事をあばかれ、日本的経営を支えてきた護送船団は沈没した。

 年次改革要望書は、“三種の神器”に代表される日本的経営にトドメを刺した。企業忠誠心は急速に冷めていく。高度成長時代の古き日本的経営は化石になったのだ。

日本はイカロスのように「ネメシスの報い」を受けた

 日本大改造改革のシナリオを描いたのは、クリントン政権で東アジア担当国家情報官を務めたヴォーゲル教授である。

 日本的経営が死滅し、要望書通りに日本の大改造が進んでいることを見届けたヴォーゲル教授は2004年に『ジャパン・アズ・ナンバーワン』の復刻本を出した。序文には「ネメシス」が何度か出てくる。ギリシャ神話で、人間の思い上がった無礼な行為に対する神の怒りから罰を与える女神である。

 イカロスは天性の資質ゆえに最初は目覚ましい成功を遂げながらも、翼を得て得意のあまり太陽に近づきすぎたため、熱で蝋が溶け、翼が取れて海に落ち、溺れ死んだ。イカロスは「ネメシスの報い」を受けたのだ。

 ヴォーゲル教授がいうように、ネメシスはかつて日本の頭上にいた可能性がある。ヴォーゲル教授は自らがネメシスの化身となり、思い上がり無礼な日本に天罰を与えたのかもしれない。各メディアは、ヴォーゲル教授に好意的な評伝を載せているが、クリントン政権の所業を見るにつけ、そうそう素直になれない。親日家のライシャワー大使が、「発禁」を警告したのは、『ジャパン・アズ・ナンバーワン』の奥に隠された、「ネメシスの報い」の意図を察知したためではなかろうか。

(了)

【森村 和男】

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