2024年05月02日( 木 )

「CO2実質ゼロ」宣言の真意は?~動き出す太陽光、風力の再エネ転換(中)

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エネルギー戦略研究所(株) 取締役研究所長 山家 公雄 氏

 政府は「2050年CO2実質ゼロ」を宣言し、洋上風力などの再エネ転換にようやく本気で取り組む姿勢を見せたが、その真意は。さらに、太陽光など再エネ発電所の普及に大きな壁となってきた「空き容量ゼロ」(送電線につなげない)問題は、東京電力の調査で99%が空いていると発表されたが、解決に向かうのか。市場の「中立性」には課題が残る。

実は99%が空いていた送電線

洋上風力発電
洋上風力発電

 再エネは電力取引が自由化されても、発電所をつくるときに接続契約する送電線が「空き容量ゼロ」とされ、「容量が足りず電力系統(※1)につなげない」ことが大きな問題になってきた。原子力や火力などの既存発電所が優先され、新規参入の再エネ発電所に大きな壁となってきたこの問題が大きく動いている。

 再エネ発電所の送電線接続の申し込みが多いものの、「送電線の空き容量がなく接続できない」とされていた千葉方面で、東京電力パワーグリッド(株)(東電PG)がその実態を調べたところ、大規模に再エネを接続しても実際に空き容量がない時間は1%ほどで、残り99%は送電線が空いていることが判明した。

 山家氏は「千葉県で新たな大規模洋上風力などの計画があり、本当に『空き容量ゼロ』なら送電線の増強費用に約1,300億円、整備期間約10年が見込まれるため、東電PGは真剣に検討し、時々刻々の実潮流ベースのシミュレーションを行ったのだろう。その結果、1%の出力抑制で済むことが判明した」と話す。

 そこで東電管内では、再エネを制限せずに接続して空き容量があるときには送電し、空き容量がない時には出力制御する「ノンファーム型」の試行を開始。政府も送電線の接続・運用ルールを見直し、2021年にはこの仕組みを全国展開すると7月に発表した。

 山家氏は「本当に全国で実現されるなら、今すぐにでも多くの再エネ発電所は接続できて送電線の問題は大きく前進するが、そうなると再エネ以外の原子力・火力発電所をもつ大手電力に支障が出るため、政府が宣言したとしても額面通りに実行されるのか疑問が残る。『取り組んだ』と言いながら、実際には東電PG方式と似て非なる仕組みを認める可能性もあり、どこまで具体的に運用されるのか、その動向を注視したい」とする。

 東電PGの調査結果を受け、環境省系シンクタンクの(公財)地球環境戦略研究機関(IGES)が、京大の協力を得て「空き容量なし」とされる北海道で再エネを大量に導入したケースの送電線利用シミュレーションを行った。その結果、やはり容量を超えるのは短い期間でほぼ出力抑制なしで送電できることがわかった(10月15日)。IGESは次に東日本、さらに全国について調査を行う予定としている。

 送電線が容量を超える「混雑時」には、どの発電所が出力抑制を受けるのかが問題になる。現状の「先着優先ルール」では、新しく接続された発電所から抑制指令を受けるが、卸取引価格が安い電力の抑制を後回しにした方が合理的でもあるため、「メリットオーダー方式」と呼ばれる方式が採用される方向だという。再エネは燃料費がほぼゼロで卸取引価格が安いため、出力抑制に関して優先される見込みだ。

(つづく)

【石井 ゆかり】

※1:利用者に電力を届けるための送電、配電などの設備で、東京電力などの大手10電力会社が運用。 ^


<プロフィール>
山家 公雄
(やまか・きみお)
山家 公雄 氏 エネルギー戦略研究所(株)取締役研究所長、京都大学大学院経済学研究科特任教授、豊田合成(株)取締役、山形県総合エネルギーアドバイザ――。1956年山形県生まれ。80年東京大学経済学部卒業。日本開発銀行(現・日本政策投資銀行)に入行し、電力、物流、鉄鋼、食品業界などを担当し、環境・エネルギー部次長、調査部審議役などに就任。政策的、国際的およびプロジェクト的な視点から環境・エネルギー政策を注視し続けてきた。主な著書に、『日本の電力改革・再エネ主力化をどう実現する』『日本の電力ネットワーク改革』『テキサスに学ぶ驚異の電力システム』『送電線空容量ゼロ問題』『「第5次エネルギー基本計画」を読み解く』(インプレスR&D)、『アメリカの電力革命』『日本海風力開発構想―風を使い地域を切り拓く』『再生可能エネルギーの真実』『ドイツエネルギー変革の真実』(エネルギーフォーラム)など。

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