2024年04月18日( 木 )

ポスト・コロナ時代をどう生きるか?変化する国家・地域・企業・個人、そして技術の役割(2)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 ポスト・コロナ時代に、バイデン新政権下での米国、中国、ミャンマー、台湾、韓国、北朝鮮、中東などの国際情勢はどう動き、日本はどのような役割をはたすべきなのか。さらに、管理社会化が進むなか、国家や企業、個人は新しい時代をどのように切り開いていくべきなのか。国際政治経済学者・浜田和幸氏、元公安調査庁第2部長で現アジア社会経済開発協力会会長・菅沼光弘氏、経済産業研究所コンサルティング・フェローの藤和彦氏が鼎談(ていだん)を行った。

世界のワクチンの巨大利権

国際政治経済学者 浜田和幸氏
国際政治経済学者 浜田和幸氏

 浜田 WHO(世界保健機関)の調査チームが武漢を訪れていますが、発生源の特定にはまだ数年かかる見込みです。一方、「新型コロナウイルスの特効薬が開発されてウイルスへの恐れがなくなった」と信じたい人を狙い、ビッグファーマのワクチンビジネスが幅を効かせています。

 菅沼 ワクチンの無料接種もそうですが、どのような事情が裏にあるのかをいつも考える必要があります。

 浜田 米中覇権争いが続きますが、米ファイザーと提携するビオテックは上海の製薬メーカーと共同でワクチン開発を行っており、テーブルの下では両国はビジネスで手を結んでいます。表から見えない利権やリスクにアンテナを張ることが必要ですね。

 藤 内閣情報調査室内閣参事官のときに鳥インフルエンザの流行が起こり、国立感染症研究所から「致死率が高いウイルスは、感染速度が遅いのでパンデミックになりにくい」と聞いていました。1918年から流行した「スペイン風邪」のようにコロナは致死率が高くないことも、パンデミックが起こった原因と考えています。

 日本は68年の香港風邪以降、パンデミックをまったく経験しておらず、近年はネガティブなイメージから、感染症のワクチンがそれほど普及しませんでした。しかし、コロナで安全神話が崩壊し、「平和」な時代のコストを支払うことになりました。日本は今回の安全保障の教訓を生かして、次のパンデミックではうまく対応できるのではないでしょうか。

(独)経済産業研究所コンサルティング・フェローの藤和彦氏
(独)経済産業研究所コンサルティング・フェローの藤和彦氏

 中国の調査では、コロナは中国雲南省のコウモリのウイルスと遺伝子が96.2%の割合で同じという結果が出ています。もともとの発生源はアジアのキクガシラコウモリであることがわかっていますが、残り4%の遺伝子が自然の進化で変わるためには40年以上かかります。いまだ発見されていない中間宿主がいるはずです。

 WHOのテドロス事務総長は昨年10月からパンデミックは再来すると発言しており、次の感染症のパンデミックもアジアから出るといわれていますね。マレーシアのオオコウモリのニパウイルスも中国で感染が爆発する恐れがあります。

深刻化する格差問題~地域や企業の役割

 浜田 交通手段が発達した今では、人の移動で病原菌が広がりますが、観光業や航空業界をはじめ多くの業界が苦境にあり、いつまでもロックダウンをしているわけにはいきません。個人の免疫力を強化するにも限界があるなか、国に頼って解決されることでしょうか。地域や企業は、社会や経済の再生に向けてどう対策していくべきでしょうか。

アジア社会経済開発協力会会長・菅沼光弘氏
アジア社会経済開発協力会会長・菅沼光弘氏

 菅沼 グローバリズムがこれほど普及していなければ、コロナのパンデミックは起こらなかったでしょう。社会の深刻なひずみを生んでいるグローバリズムをどう解決するかが課題です。

 トランプ前大統領は500万円の薬を使ってわずか4日間で治したと言われており、富裕層は山のなかや地下シェルターに逃げ込むことができますが、このような人々はほんの一部です。GAFAはコロナ禍でも史上最高益を記録していますが、米国では貧富の差が拡大しています。日本でも格差が広がり、ソフトバンクグループは2021年の第3四半期決算で純利益が3兆円を超え、市場にはマネーがあふれています。

 浜田 米国だけでなく、非正規雇用で収入が安定しないため、経済的な理由から結婚して子どもを育てられない人が増えて人口が減り、経済のダイナミズムが失われている日本でも格差は深刻な問題です。

 藤 まず、パンデミックに対応できる医療体制をどう築くかが課題です。日本は平時の医療体制はうまく働いていますが、医療改革で大規模の病院が少ないため、有事には機能しません。医師が少なく、医療資源が分散しています。地域医療のシステムも整っていないため、病院は規模に関係なくお互いにライバルで、多くの患者を一度に受け入れる体制が整っていないことも解決が必要です。

(つづく)

【石井 ゆかり】


<プロフィール>
浜田 和幸
(はまだ・かずゆき)
 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。最新刊は19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。

菅沼 光弘(すがぬま・みつひろ)
 アジア社会経済開発協力会会長。東京大学法学部卒業。1959年に公安調査庁入庁。入庁後すぐにドイツ・マインツ大学に留学、ドイツ連邦情報局(BND)に派遣され、対外情報機関の調査に携わる。帰国後、対外情報活動部門を中心に、元公安調査庁調査部第二部長として旧ソ連、北朝鮮、中国の情報分析に35年間従事。世界各国の情報機関との太いパイプをもつ、クライシス・マネジメントの日本における第一人者。主な著書に『この国を脅かす権力の正体』(徳間書店)、『日本人が知らない地政学が教えるこの国の針路』(KKベストセラーズ)、『ヤクザと妓生がつくった大韓民国』(ビジネス社)、『米中新冷戦時代のアジア新秩序』(三交社)など。

藤 和彦(ふじ・かずひこ)
 (独)経済産業省経済産業研究所コンサルティング・フェロー。1960年生まれ、愛知県名古屋市出身。早稲田大学法学部卒。84年通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギーや通商、中小企業政策などの分野に携わる。2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)、16年から現職。主な著書に『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』(PHP研究所)、『石油を読む―地政学的発想を超えて 』(日経文庫)、『原油暴落で変わる世界』(日本経済出版社)など。

(1)
(3)

関連記事