【医療】抗うつ薬「クロミプラミン」をコロナ治療薬に 九州大学など
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九州大学大学院薬学研究院の西田基宏教授や国立医薬品食品衛生研究所(川崎市)などの研究グループが、抗うつ薬「クロミプラミン」が新型コロナウイルスの動物細胞(宿主細胞)への侵入を妨げる効果があることを突き止めた。
同大学院薬学研究院は、安全性がすでに確認されている承認薬のなかから新しい薬理作用を見出して、有効な治療薬のない疾患の新薬候補に適応拡大する「エコファーマ(育薬研究)」を進める。
西田教授らの研究グループはコロナウイルス感染が引き起こす重大なリスクの心疾患に着目し、1,200種類の承認薬のうち抗がん剤に誘発された心毒性を抑える複数の化合物を特定。そのなかで抑制効果が強い上位13種類の化合物を洗い出した。
コロナウイルスの動物細胞への侵入は、ウイルス表面上のスパイクタンパク質(Sタンパク質)が、タンパク質分解酵素によって活性化されることから始まる。その後、Sタンパク質が動物細胞膜上にあるアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)受容体と結合して細胞内に侵入し、細胞内でRNA自己複製を介して増殖し細胞を破壊する。さらに細胞外に出てほかの細胞に侵入、同じことを繰り返していくとされる。
研究チームは、緑色蛍光タンパク質と融合させたACE2受容体を用いてコロナウイルス疑似感染測定システムを開発。どの化合物が、ACE2受容体の細胞侵入を、どれだけ妨げたかがわかる仕組みをつくった。
この方法で13種類の化合物を調べた結果、クロミプランがACE2受容体の細胞内侵入を50%阻害することを突き止めた。アカゲザル由来のウイルス感染モデル細胞株にコロナウイルスを感染させ、クロミプランの効果を調べると、クロミプランの量に比例して抑制効果が強いこともわかった。
ヒトiPS細胞由来の心筋細胞では、コロナ患者の治療薬「レムデシビル」とクロミプランを併用すると、コロナに感染した細胞のウイルス増殖が99%近く抑えられた。また、生化学的なACE2受容体の結合実験では、クロミプランはコロナウイルスのSタンパク質が細胞のACE2受容体と結合するのを阻害せず、細胞内侵入を強く阻害することが判明した。世界中で増えているコロナウイルスの変異株に対しても抑制効果を望めるという。
今後、研究グループは変異ウイルスに対する抑制効果を詳しく検証する。クロミプランは商品名「アナフラニール」。国内では1973年1月に承認済。抗うつ薬と新型コロナ治療の関係では、海外の医学雑誌『JAMA』(米国医師会雑誌)電子版が20年11月、SSRI(選択的セロトニン再取込阻害薬)という別のタイプの抗うつ薬の1つ「フルボキサミン」(商品名デプロメール/ルボックス)に重症化を抑制する可能性があると掲載。国内でも千葉大学社会精神保健教育研究センターの橋本謙二教授の研究グループが、フルボキサミンによる重症化予防効果を検証する臨床試験を計画している。
【南里 秀之】
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