中小企業の生き残り戦略(18)経営者のコミットメントがDXを動かす ~“現場を変える”リーダーシップとは~

はじめに

 DX(デジタルトランスフォーメーション)は、ツールの導入でも、システムの整備でもなく、経営者の意志から始まる「変革の物語」です。前回は「デジタルは手段であって目的ではない」こと、そして経営者自身が自社の存在意義を再定義する重要性について述べました。今回は、その“再定義”をいかに現場に浸透させ、「組織が動く状態」をつくるかを考えます。

1. 経営者のコミットメントとは何か

    コミットメントとは、「やると決めたことをやり抜く覚悟」であると私は考えています。DX推進の現場では、経営者のこの姿勢がすべての起点になります。しかし、単に「DXをやるぞ」と宣言するだけでは不十分で、重要なのは、「自社が何のためにDXを行うのか」を、経営者自身の言葉で語ることだと考えます。目的なきデジタル化は単なる“作業”になってしまいますが、意志あるデジタル化は“変革”を生むきっかけをつくります。経営者が本気でDXを経営戦略として位置づけることで、現場は初めて「自分たちの仕事が変わる意味」を理解することができるのです。

2. 経営層から現場へ──共感を生むメッセージ伝達

 経営者のコミットメントを現場に伝えるには、“共感”が不可欠です。そのためのポイントは次の3つです。

①ビジョンをストーリーで語る

 数字や目標だけでなく、「なぜ今変わらなければならないのか」という背景を具体的なストーリーで共有する。

②トップが現場の課題を理解する姿勢を見せる

 現場に寄り添う「聞く力」が信頼を生む。経営者が現場を訪れ、直接ヒアリングするだけでも心理的距離は縮まる。

③成果の可視化を“称える文化”として根付かせる

 「うまくいった」「改善できた」を全社で共有し、小さな成功を称える仕組みをつくる。この“見える化”が、次の挑戦を後押しする。

3. 失敗を許容する文化が挑戦を生む

 DX推進の現場でよく聞く言葉に、「失敗したくないから新しいことに手を出せない」という声があります。しかし、DXとは“正解のない改革”であり、トライ&エラーを許容する文化なしには前進できません。経営者が「失敗を責めない」姿勢を明確に示すことで、現場の心理的安全性が確保され、挑戦が始まります。これこそが、経営者のコミットメントが文化に変わる瞬間といえます。

4. コミットメントを「仕組み化」する

 意志を継続的に行動につなげるには、仕組み化が必要です。たとえば、月1回の「DXミーティング」でトップが方向性を語るとか、小さな成功を共有する表彰制度を設けるとか、社内報などに「変革ストーリー」を連載して社員の挑戦を可視化するとか、そういう取り組みを文化として根づかせることが仕組みにつながります。

まとめ──
経営者が動けば、組織が変わる

 DXはツールの話ではなく、「人の変化の連鎖」なのです。経営者が自らの言葉で方向性を語り、挑戦を称え、失敗を許す文化をつくれば、現場はひとりでに自走し始めます。経営者のコミットメントとは、“意志を共有する力”であり、“文化を変える起点”なのです。次回は、「DXを組織文化として根付かせる“学習する組織”の在り方」をテーマに、継続的な変革を生み出すための実践的方法を考察します。

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(株)コンシャスマネジメント代表取締役/中小企業診断士
西岡隆
(にしおか・たかし)
大学卒業後、会計事務所、監査法人などを経て2001年中小企業診断士登録と同時に西岡経営管理事務所を開設。21年、事業拡張にともない(株)コンシャスマネジメントを設立

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