レトロ30周年と新施設誕生へ 北九州・門司港エリア(後)

区役所などを集約化
駅前に複合公共施設

 そのほかに門司港エリアでは現在、エリア内に点在した公共施設を駅前に集約する「門司港地域複合公共施設整備事業」が進んでいる。

 門司港エリアに点在する門司区役所や市民会館などの公共施設のなかには、すでに築90年を超えているものもあり、耐震性やバリアフリー面での対応が十分でなく、老朽化によって安全面や衛生面などに課題を抱えている。そのため同事業は、15年度の「北九州市公共施設マネジメント実行計画」に基づき、約9年間の協議を経て、JR門司港駅に隣接した交通利便性の高い場所に、点在する公共施設を集約・複合化することで、市民の安全性・利便性の確保と地域の活性化を図るものとして進められてきた。

 ところが、同事業の建設予定地において、23年度に埋蔵文化財発掘調査を行った際に、旧門司停車場の機関車庫の一部や石垣などの遺構(地中に残存する建造物の痕跡など)が発見された。そのため、同遺構の保存の在り方をめぐって、国際記念物遺跡会議(ICOMOS)も巻き込んで論争が勃発。市では、発掘された遺構に係る出土品や記録等を用い、当時の門司港地域の地理や歴史、産業や人々の暮らしなどをわかりやすく伝える展示方策などを検討する懇話会などを開催するほか、市民や地元の各団体への説明会などでさまざまな意見の募集を行い、市議会の議決を得て、1つひとつプロセスを踏みながら事業を進めてきた。

 今回の事業で集約化の対象となるのは、門司区役所のほか、港湾空港局庁舎、門司市民会館、門司生涯学習センター、門司勤労青少年ホーム、門司図書館、旧国際友好記念図書館の計7施設。これらをホール・会議室・図書館・庁舎の機能をもった複合公共施設として集約し、複合化・多機能化することで、施設整備費や維持管理費、運営費の削減につなげるだけでなく、利便性の向上と市民サービスの効率化を図り、周辺地域の活性化や賑わい創出を図っていくとしている。建物は新設する駅前ロータリーを囲むかたちで、S造・SRC造・地上5階建の複合公共施設棟と、駐車場棟の2棟で構成される。複合公共施設棟の1階部分には図書館と生涯学習センターが入り、2~4階部分に区役所と多目的ホールが、5階部分に港湾空港局が入る計画。施工は、準大手ゼネコン・戸田建設(株)を筆頭とする戸田・九鉄・川口特定JVが担当。すでに25年10月に着工しており、28年3月下旬までの工期を予定している。

 なお、同複合公共施設は、前述の旧JR九州本社ビルやJR門司港駅とも隣接。外観には周辺の歴史的建築群と調和する色彩が採用されているほか、門司港レトロ地区の玄関口にふさわしい景観となるよう配慮がなされている。今後、完成の暁には、JR門司港駅周辺が門司港レトロの「観光の拠点」であると同時に、名実ともに「市民生活の心臓部」として再生することになるだろう。

ピーク時の約半分に
歯止めかからぬ人口減

 最後に、改めて現在の門司港エリアについて見ていきたい。門司港エリアは、関門海峡に面した狭隘な平地に都市機能が集中する一方で、背後にはすぐに山が迫るという地形的特徴をもつ。この制限された地形が、かつての高密度な都市形成を可能にした一方で、現代においては新たな開発を阻む障壁となっている点は否めない。

 エリア内の用途地域を見ていくと、港湾部の多くで商業地域(容積率400%、建ぺい率80%)となっているほか、山側に第1種住居地域(容積率200%、建ぺい率60%)や近隣商業地域(容積率200%、建ぺい率80%)、西海岸の一部やJR線路・駅施設などが準工業地域(容積率200%、建ぺい率60%)となっている。一方で、山側には市街化調整区域となっているところも少なくなく、開発可能な土地が限られたエリアだといっていい。

 エリアへのアクセスは、JR鹿児島本線の起点となるJR門司港駅があるほか、エリア内を国道3号(老松公園前交差点から北は国道2号)が通り、本州と九州をつなぐ唯一の道路用トンネル「関門トンネル」を要している。また、北九州高速道路・春日出入口や、九州自動車道・門司ICおよび門司港IC(下関方面への出入口のみ)も近接するなど、鉄道および自動車利用ともに交通アクセスは悪くはない。

 だが、人口動態に目を向けると、全体的に人口減が続く北九州市内のなかでも、とくに人口減が顕著なのが門司港エリアを含めた門司区だ。門司区の人口は25年9月末現在で8万9,799人・4万8,418世帯となっており、ピーク時(1959年頃)の16万人超から比べるとほぼ半減。前述したように門司港レトロに訪れる観光客数は安定的に推移している一方で、門司港エリアでは人口減および高齢化が進行しており、街の活力維持が喫緊の課題だ。こうしたなかで、エリア内の栄町銀天街や門司中央市場などの地元商店街では、シャッターが閉まった店舗も多く見受けられ、寂しげな雰囲気が漂っている。

 なお、近年では門司港レトロで開催されるイベントと連動して商店街に人を呼び込む取り組みを行っているほか、空き家をリノベーションしてカフェやアトリエを開業するケースなども見受けられる。今後はエリア全体で、観光地としての役割・機能だけでなく、地元住民の居住地・商業地としての役割・機能も互いに補完し合う、「職住遊」が一体となった持続可能なモデルの構築を進めていくことが求められるだろう。

 なお、開発可能な用地が限られている門司港エリアだが、それでもいくつかのマンション開発は進んでいる。

 まず、老松町のJR門司港駅から徒歩約10分の大坂町通り沿いでは、(株)九州三共による「リヴィエール門司港ファーストビュー」が開発された。RC造・地上14階建で、総戸数は26戸。設計・監理は(株)久保建築設計が、施工は福屋建設(株)がそれぞれ担当し、25年8月に竣工した。

 また、港町の国道3号沿い、JR門司港駅から徒歩約4分の旧三井銀行門司支店跡地では、第一交通産業(株)による「グランドパレス門司港レトロ ザ・マークス」の開発が進んでいる。RC造・地上11階建で、総戸数は66戸。設計・監理は久保建築設計が、施工は(株)川口建設がそれぞれ担当し、27年2月の竣工を予定している。

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 門司港エリアの今後の方向性を考えていくうえで、エリア内の開発を進めて観光地と居住地・商業地としての融合を図っていくことが求められるが、もう1つ欠かせない存在がある。それは、関門海峡を挟んで対岸に位置する下関・唐戸エリアだ。

 九州と本州、福岡県と山口県、北九州市と下関市といったように所管・所属こそ違えども、古くから門司港と下関は「関門」として、一体のエリアと捉える向きもある。観光地としてのコンテンツとしては、門司港にレトロな洋風建造物などがある一方で、下関には唐戸市場や水族館「海響館」、しものせき遊園地「はい!からっと横丁」などがあり、それぞれが補完し合うことが可能だ。北九州・門司港と下関・唐戸は、関門汽船の関門連絡船を利用すれば所要時間わずか5分で移動でき、両エリアを行き来することで、課題となっていた滞在時間の短さを解決することもできるだろう。

 また、冒頭に紹介したポートタウン門司港に入る「BEB5門司港」と同様に、下関でも25年11月に星野リゾートのリゾートホテル「リゾナーレ下関」が開業している。今後、星野リゾートとして、「関門」を一体的に捉え、2つのホテルを連携させた何らかのパッケージやプランなどを打ち出してくることも考えられる。ただし、門司港と下関が今以上に連携し、ともに発展していくためには、民間の力だけでなく所属自治体である北九州市と下関市が、ハードとソフトの両面で、さらに密接に連携していくことが求められるだろう。

 今夏に開業するポートタウン門司港や、開発が進む駅前の複合公共施設、そして旧JR九州本社ビルの活用事業などを契機として、門司港エリアが民間活力も活用しながら単なる観光地にとどまらない、賑わいあふれるエリアとなっていくことを期待したい。

(了)

【坂田憲治】

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