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2021年03月25日 10:30

コロナ騒動を機に「日本の文化度」を考察(5)

美術評論家 岩佐 倫太郎 氏

 ドイツでは、グリュッタース文化相が「文化は平穏なときにだけ享受される贅沢品ではありません。皆さんを見捨てるようなことは決してしません」(2020年5月)と具体的な支援・補償を約束した。一方、日本では「日本の文化芸術の灯は消してはなりません」(宮田文化庁長官)という発言はあったものの、具体的な取り組みにはほとんど言及していない。「日本の文化度」について、美術評論家の岩佐倫太郎氏に話を聞いた。

日本人を支える「西洋文化への理解」と「自国文化への矜持」

 ――私たち日本人にとって、文化芸術とはどのような存在なのでしょうか。

 岩佐倫太郎氏(以下、岩佐) 私はリベラル・アーツとしての美術を講義しています。絵画そのものも解説しますが、その理解から一歩進んで、絵画を通して、政治・経済・社会などに対する西洋の考え方をどう理解するかに重点を置いています。文章で読むよりもわかりやすいと思うからです。

 長年、海外とビジネスをやっていて感じることなのですが、外国との政治交渉や海外企業との取引で、最後に日本人を支えるのは「西洋文化への理解」と「自国文化への矜持」だと思っています。

 このことについて、日本の知識人やエリートビジネスマンといわれる方の多くがわかっていません。それどころか、エリートにとって「日本はダメだ」と言うことがステータスになっている嫌いさえあります。自国文化への矜持については、先に浮世絵やジャポニスムを通して述べましたので、ここでは西洋文化への理解について考えてみます。

岩佐 倫太郎 氏
岩佐 倫太郎 氏

 最近の講義で受講生の反応が強かったのは、絵画を通じた旧約聖書「創世記」の解説です。私は忙しいビジネスマンが「西洋世界の成り立ち方」を学ぶ一番の早道は、旧約聖書の創世記「天地創造」を読んで理解することだと考えています。

 旧約聖書とは、ユダヤ教とキリスト教の正典です。イスラム教もその一部を正典としています。世界はどのように発生したのか、動物、植物、人間はどのように生まれたのか。何もなかった世界に神が光や闇、大空や海、生き物や人間を7日間かけて創った。これこそが一神教の考え方であり、西洋人のものの考え方はここに根差しています。相手の文化を知らずに商売だけ持ちかけても信用されませんので、最低限ここを抑えておいてほしいですね。

 旧約聖書のこの部分を読むだけでも、一神教の場合、世界の成り立ちの考え方が我々と根本的に違うことを理解できます。

『旧約聖書』 創世記「天地創造」

1日目 神は天と地をつくられた。暗闇があるなか、神は光をつくり、昼と夜ができた。
2日目 神は空をつくられた。
3日目 神は大地をつくり、海が生まれ、地に植物がはえた。
4日目 神は太陽と月と星をつくられた。
5日目 神は魚と鳥をつくられた。
6日目 神は獣と家畜をつくり、神に似せた人をつくられた。
7日目 神はお休みになった。

    少なからずこのように考え、信じる人たちと我々は付き合っていくわけです。八百万の神ではないし、たった1人の絶対的存在が、この世のすべてをつかさどっているという考え方ですね。

DNAに埋め込まれた「遊び欲求」

 ――最後に、読者の皆さまへメッセージをいただけますか。

 岩佐 私たちが絵画を鑑賞する目的はどこにあるのでしょうか。先のドイツのグリュッタース文化相の話に戻ってしまうのですが、我々人間は、生来的に絵画や音楽など芸術を求めています。それはパンのみによっては生きられない存在だからです。

 ハンドルの遊びのように、人間の成り立ちのなかに、生命的な飲食や生殖の欲求、経済的に生きていくための功利的な頭の使い方や活動に加えて、情緒や感覚の新しさと満足を求めるいわば「遊び欲求」がDNAとして埋め込まれているのだと思います。そして、それが満たされているときは人は概ね幸福であり、そうでないときは生存環境が悪化していると考えられます。

 それは、人類が発展してきた要因でもあり、ドイツの文化相流にいえば、「民主主義社会を維持する基礎」ということができます。日本も今回のコロナ騒動を機に、さらに一歩進んだ自国文化をリスペクトする文化芸術大国を目指す必要があるのではないかと思っています。

(了)

【聞き手・文:金木 亮憲】


<プロフィール>
岩佐倫太郎氏
(いわさ・りんたろう) 
美術評論家。大阪府出身。京都大学文学部(フランス文学専攻)卒。大手広告代理店で美術館・博物館・博覧会などの企画とプロデューサーを歴任。ジャパンエキスポ大賞優秀賞など受賞歴多数。ヨットマンとして『KAZI』(舵社)などの雑誌に寄稿・執筆、作詞家として加山雄三氏に「地球をセーリング」を提供。大学やカルチャー・センターで年間50回を超える美術をテーマとした講演をこなす。近著に『東京の名画散歩~印象派と琳派がわかれば絵画が分かる』(舵社)。美術と建築のメルマガ「岩佐倫太郎ニューズレター」は全国に多くのファンをもつ。

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