2024年04月25日( 木 )

所有のコスト背負わず所有する無敵の「方程式」~星野リゾート(3)

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ライター 黒川 晶

保有のコストやリスクを負わずに所有〜REIT投資法人設立

 (株)星野リゾートは2013年3月、日本の観光産業の成長の果実を多くの投資家も享受できる仕組みをつくるとして、「星野リゾート・リート投資法人」(秋本憲二・代表取締役社長)を設立、同7月に東京証券取引所に上場した。リート(REIT)とは、「投資口」(株式会社の株式に相当)の発行を通じて「投資主」(投資家)から資金を集め、オフィスビルや商業施設、マンションなど不動産を購入してテナントに賃貸、その賃料収入や売却益を投資家に分配するという、投資信託の一形態である。投資主は投資証券を証券市場で売買し、キャピタルゲインを狙うこともできる。

中軽井沢駅 星野リゾートはこのリートに、創業の地である「星のや軽井沢」をはじめ、「再生事業」で獲得した物件を次々売却=エグジッドしていくようになった。同年11月には持株会社「(株)星野リゾートホールディングス」を新設。本体の「星野リゾート」はその100%子会社の運営事業会社となる。「所有」をせずに「運営特化」を目指すという星野社長の約束は、こうして一見、着々と履行されているように思われた。

 ところが、この「星野リゾート・リート投資法人」が、じつにトリッキーなつくりになっているのである。投資法人は法律によって自ら資産を運用することが禁じられており、物件の取得や売却といった実際の運用は業者に委託する。しかるに、「星野リゾート・リート投資法人」の資産運用委託業者は、「星野リゾート」の100%子会社の「(株)星野リゾート・アセットマネジメント」(秋本憲二・代表取締役社長、2010年5月設立)である。そこに「星野リゾート」は自らが保有する物件を売却していくのであるから、いわば自分が自分に物件を売るような構図を形成することがわかる。

 このとき、「星野リゾート」が得る売却益の原資は、「星野リゾート・リート投資法人」という「器」を通じて投資主から集めた資金である。加えて、「星野リゾート」自身は非上場を貫くことで、運営に対する投資主の介入を遮断できるほか、事業の詳細を開示する義務もない。また、「星野リゾート・リート投資法人」は買い取った物件の固定資産税を支払わねばならないが、収益=テナント料の一部をそれに充て、残りの大部分(税引前利益の90%以上)を内部留保せず配当に回せば、法人税を支払わずに済む。

 そこへもって、テナント=物件のオペレーターとして、これまた「星野リゾート」が入るのである。つまり、自分が物件の売り手となり、保有者となり、さらにはその借り手となるわけだ。こんなリートは前代未聞であるといい、市場からは「利益相反」を懸念する声が挙がったが、「星野リゾート」は「星野リゾート・リート投資法人」と、20年という長期契約で、10年の賃料改定不可、中途解約禁止という条項の入ったテナント契約を結ぶ。

 これによって、エグジットによる売却益が目的ではないとリートの投資主らにアピールできる(実際、星野佳路代表は(株)日経BPのインタビューのなかで、エグジットしてそれで終わりの他のリートのほうがよほど「利益相反」ではないかと反論している)のみならず、石井くるみ氏も指摘しているように、ここでは同投資法人が「安定地主」として機能し、「星野リゾート」は運営を通じて収益を上げるべき物件を長期的かつ安定的に確保できる――不動産保有に係るコストとリスクを、不特定多数の投資主に分散して負わせつつ。

 要するに、星野リゾートはリート設立を通じ、開発・建設といった初期費用も保有のコストもできるだけ負わずに運用物件を「所有」しているのと同じ効果を得られる仕組みをつくり上げたのだ。あとは「公募増資などでREITに市場から資金を吸い上げさせ、これを元手に星野リゾートが手に入れた物件を買い取らせる。星野リゾートはその売却収入を得て、次の“獲物”を買収しては運営施設を増強。リノベーションで軌道に乗ったら、再びREITに売却して、そのまた次の買収に取りかかる。これを断続的に繰り返してい」(『選択』17年12月号)けばよい。ここ数年の星野リゾートの、強気なまでの事業拡大は、まずはここから説明されうるだろう。だが、それだけではあるまい。というのも、経済復興をかかげる政府が、観光業振興の名のもとに、星野リゾートをこそ強力にバックアップしてきたふしが見受けられるからである。

(つづく)

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