2024年05月06日( 月 )

男女平等の進んだ国と進んでない国~DEVNET INTERNATIONAL・アザーニュース

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田内正宏(DEVNET JAPAN 顧問、前駐ノルウェー日本国大使)

 Net I・B-Newsでは、世界の有識者約14,000名に配信しているニュースサイト「OTHER NEWS」(配信言語は英語、スペイン語、イタリア語)に掲載されているDEVNET INTERNATIONALのニュースを紹介している。DEVNETは日本に本部をもつESCOS認証カテゴリー1に位置付けられている一般社団法人。今回は男女平等に関する記事を紹介する。(該当記事)

 本年3月31日、世界経済フォーラムが、男女の格差(ジェンダーギャップ)に関する報告書「Global Gender Gap Report 2021」を発表した。この報告は、例えば国会議員や企業管理職の男女比、識字率の男女格差、健康寿命の男女比など、政治、経済、教育及び健康の分野における男女の成績を女性÷男性で表したもので、1に近いほど男女の格差が少なく、0に近いほど大きいことを意味している。日本のスコアは0.656で世界第120位、G7の中では他国に大幅に引き離されて最下位、韓国102位、中国107位よりも低い成績であった。ノルウェーを含む北欧諸国はいつも男女格差のない国のトップクラスに挙げられる。1位アイスランド0.8922位フィンランド0.861、3位ノルウェー0.849となっている。日本はなぜ順位が低いのか? その理由は明らかで、第一に政治、次いで経済における女性の参画の程度に差があるためである。

 私が大使を務めたノルウェーでは、統治機構の三権の長(ソールベルグ首相、トルーエン国会議長、ウイエ最高裁長官)がいずれも女性である。閣僚20人中女性は8人(40%)である(2021年5月現在)。2017年9月の総選挙で選ばれた国会議員169名のうち、女性議員は70人(41.4%)、2019年の統一地方選挙における地方自治体の議員9,336人のうち、女性は3,779人(40.5%)である。政治の分野におけるこのような女性の進出は、選挙において完全比例代表制をとり、各党が女性候補割合の割当制(クォータ)を設けることにより可能となった。

 歴史的には、1970年代から各政党が選挙における女性候補の数を増やす努力を行い、割当制(クォータ)を設けたことが女性の地方議員を増やした。また、1988年改正の男女共同参画法は、「公的に設置される理事会、審議会及び委員会が4名以上で構成される場合は、一方の性が全体の40%以上を占めなければならない。」と定め、2005年改正の地方自治法では、地方議会の選挙において、男女それぞれが40%以上候補者リストから選ばれなければならないとされた。

 また、ノルウェーは、企業における女性の地位向上のため、上場企業における女性取締役の割当てを定めた最初の国として知られている。2003年の公開株式会社法(Norwegian Public Limited Liability Companies Act)により、公開株式会社(国有企業,複数自治体が所有する企業を含む)では、取締役会の役員に占める女性の割合が40%以上とされた。この規制が設けられた際、産業界経営陣及び経済団体は、(1)適性により選ばれるべき、(1)適切な経験と技術をもった女性の育成が先決、(3)株主が取締役を選ぶ権利を持っている、(4)外国投資家が投資を控えることにつながるなどと猛反対したが、中道右派保守党の女性組織、労働組合、マスコミ等が、(1)男性による圧倒的な取締役会の支配は不公正な性差別であり正義に反する、(2)潜在的な才能は男女で等しい、(3)女性の態度経験関心等の特長が問題解決の新しい視点と方法を提供する、(4)ノルウェーの民主主義にとり経済的な決定にも男女同等の参加が重要であるなどと主張して、反対派は、右派の進歩党のみとなり、取締役会の役員に占める女性の比率を40%以上とする割当制(クオータ制)は可決された。

 当初、任意的な手法では目標が達成されず、また、他の西欧諸国からも目新しいもの好きな北欧の取り組みとして無視されたが、裁判所による違反企業の解散命令まで含んだ強い制裁が設けられ、2009年までにはこの目標が達成された。アイスランド、フランス等他の西欧諸国にも広がった。なお課題が残っているとすれば、高いレベルの執行役員になる女性が少ないことが指摘されている。日本では、東証1部上場企業のうち女性役員のいない企業が4割に上り、金融庁と東京証券取引所は企業統治指針「コーポレート・ガバナンス・コード」を改定し女性取締役を含む取締役会の人材多様化を求めている。

 男女共同参画を支えるものの一つとして、ノルウェーの子育て支援策がある。街では、子育て中の男性が乳母車を押して歩く姿をよく見かける。育児休暇は49週(給料100%補償)又は、59週(80%補償)のいずれかを選べるがここでも父親への割当制(パパクォータ)というシステムが用いられている。父親も、15週(給料100%補償の場合)又は19週(給料80%保障の場合)の育児休業を割当てられている。更に両親のいずれかが取得できる16週(100%補償)又は18週(80%補償)の育児休暇(プラス母親の産前休暇3週)が与えられる。

 貿易産業大臣や労働・社会問題大臣等政府の主要閣僚を歴任したイサクセン大臣も父親として子育てに熱心で、3人目の子供が生まれた後、15週間の育児休暇を取った。日本も法制度が整備され原則男女ともに子供が1歳(特例で1歳2か月)になるまで育児休暇が取得でき(6か月まで67%補償、その後50%補償)、小泉進次郎環境大臣も12日間だが育児休暇を取得し、時代は進みつつある。

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