• このエントリーをはてなブックマークに追加
2021年05月26日 11:30

コロナ自粛に潜む健康被害~政府の対応に大きな懸念(前)

和田秀樹こころと体のクリニック
院長 和田 秀樹 氏

 「コロナ自粛」が叫ばれて久しい。政府は外出自粛やリモートワークを推進しているが、足腰の弱体化や脳機能の低下、「コロナうつ」などのリスクが潜んでいる。「コロナ自粛」にともなう健康被害を防ぐために、どう対処すべきか。「和田秀樹こころと体のクリニック」の和田秀樹院長に話を聞いた。

自粛は命を大切にしているか?

 「コロナ禍で政府の指示に従うことに意識が向いてしまい、自粛は本当に命を大切にしているのかという視点が見落とされていることが、とても気がかりです」と和田秀樹氏は懸念する。「コロナ禍から国民の命を守るため」という理由で行われる外出自粛などが、人々の身体とメンタルの健康に深刻な悪影響をおよぼしているという。

和田 秀樹 院長
和田 秀樹 院長

 「今の時期、経営者は社員の健康やメンタルを率先して考えるべきです。とくに50代以上の人が外出自粛やリモートワークによって体を動かさなくなると、運動不足となり体力がなくなってしまいます。また、会食や人との接触の自粛で会話する機会が減ると、脳の機能が低下してしまいます。これらを防ぐとともに、コロナ禍による感染不安や経済的不安が蔓延するなかでの心のケアが必要です」(和田氏)。政府は国民に自粛を求める一方で、健康を守るための対策を表立って行っていないのが現状だ。

 対策として、たとえば毎日10分ほど体操するだけでも大きく違ってくる。運動不足に効果があるからだ。リモートワークを行っている場合も、家に閉じこもらずに散歩したり、人と話したりした方がいいとアドバイスする。

 外出自粛にともない増えている「コロナうつ」を防ぐためにも、外に出て日光にあたったり、歩いたりすることが大切となる。これは漠然とした不安が原因となり、気分が落ち込んだり、やる気が出なくなったりする心の病気で、自殺の原因にもなる。「コロナうつ」は、ストレスに対して効果がある脳内物質「セロトニン」の不足により、発症のリスクが高まる。外出自粛で体を動かさなくなるとお腹が減らず、肉類などのタンパク質の摂取量が不足したり、日に当たる時間が減少したりすることでセロトニンが不足がちとなる。食欲が出ない、ぐっすり眠れないなど、うつ病の初期症状が出た場合は注意が必要だ。

 和田氏は「コロナ禍のなかで、人とコミュニケーションを取る行為が悪いことのように言われているのも大きな問題です。心をケアするためには、通常ならば飲み会を開くことも1つの方法ですが、現状ではZoomなどを活用したオンラインで『愚痴こぼし会』を開くなど、人とのコミュニケーションを絶やさないようにすることが必要です」と話す。

メンタルケアが必須

 「コロナうつ」は、経済的な不安も原因になりやすい。コロナ自粛で経済を犠牲にしているため、解雇などの不安が高まっており、雇用調整助成金などを活用して社員の不安を取り除けるように努めることが大切だという。安定した生活を確保できるという安心感がなくなると、うつ病になりやすいためだ。

 日本では生活保護などの福祉制度がうまく機能しておらず、セーフティネットがないことがたびたび指摘されている。一方、海外を見渡すと、たとえば、福祉国家のフィンランドでは生活保護や失業などの制度が整っているため、「解雇されても生活保護で食べていける」という安心感があるといわれている。国の社会福祉が整っていると、NOKIA(ノキア)がゴム製品の生産を経て異業種の携帯電話産業に進出するなど、企業としても前向きに挑戦しやすくなる。

 「コロナうつ」が増える一方で、院内感染を怖がって医療機関を受診しない人もいる。来院時には、食欲がなくなりやせ細るなど重症化しているケースがかなり多いという。和田氏は「『コロナうつ』などのメンタルの病気をすべて薬で治せるというのは極端な考え方で、最も効果的な方法とは言い切れません。うつ病を治すには、1人で抱え込まずに素直に人に頼るなど心の持ち方を変えることや、散歩して日に当たったり運動したりするという生活の工夫も有効です。コロナ禍のなかでは、感染症分野の専門家ばかりが表に出ていますが、分野ごとに細分化しすぎずに、人の心の問題を含めて全体を見ることが必要です」と強調する。

 また、緊急事態宣言が発令された地域では、行政が飲食店での酒類の提供を禁止しているが、先進諸国と違って酒類の販売規制が緩い日本では24時間、小売店などで酒類を購入できる。そうした環境の下、社会不安の蔓延にともなって自宅飲みが増え、飲酒量の増加によってアルコール依存症が広がることも懸念されている。和田氏は「アルコール依存症を防ぐためにもオンライン飲み会を行うなど、人と話しながらお酒を飲める場をつくることが大切です」と提案。さらに、メンタルケアには長電話で話すことも有効であるとアドバイスしている。

(つづく)

【石井 ゆかり】


<プロフィール>
和田 秀樹
(わだ・ひでき)
和田秀樹こころと体のクリニック院長。精神科医・臨床心理士。1960年生まれ、大阪府出身。東京大学医学部卒、東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、国際医療福祉大学心理学科教授。一橋大学経済学部非常勤講師、東京医科歯科大学非常勤講師、川崎幸病院精神科顧問。主な著書に『こんなに怖いコロナウイルス 心の病』(かや書房ワイド新書)、『「コロナうつ」かな? そのブルーを鬱にしないで』(WAC BUNKO)、インタビュー書に『コロナ自粛の大罪』(宝島社新書)。


和田秀樹こころと体のクリニック
院 長 : 和田 秀樹
所在地 : 東京都文京区本郷3-21-12 RTビルB1F 
TEL : 03-3814-4530 
電話受付時間: 月曜日~金曜日 午後1時~午後7時(要予約) 
診察時間  : 毎週月曜日 午前11時~午後7時

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

     

トップニュース

2021年08月05日 10:06

博多三大祭り・筥崎宮の放生会~規模を縮小、露店出店は中止NEW!

 新型コロナウイルス感染拡大を受け、お触れ行事や御神輿清などの神事を取りやめるなど、規模を縮小して開催する...

2021年08月05日 09:36

動物園アジアゾウ舎整備、別府JVが2.4億円で落札NEW!

 福岡市発注の「動物園アジアゾウ舎放飼場整備(その3)工事」を(株)別府梢風園を代表とする別府・小山JVが2億4,361万2,000円(税別)で落札した...

2021年08月05日 06:00

同一労働同一賃金、個別の処遇は?NEW!

 今回は、個別の処遇について検討します。なお、以下の解説はあくまで例示ですので、会社によってその手当の「性質・目的」が異なる場合には、別の結論になることもあります...

2021年08月05日 06:00

【みやき町「健幸長寿」のまちづくり(4)】健幸長寿の象徴をカタチに、元気なまちづくりを支援NEW!

 「市村清記念メディカルコミュニティセンター」は、隣接する町営の温水プール施設の改修に合わせて周辺一帯を再開発する「メディカルコミュニティみやきプロジェクト」の肝とな...

2021年08月05日 06:00

【球磨川水害から1年】「流水型ダム」が球磨川治水の要(中)NEW!

 あくまで個人的な意見になるが、緊急治水対策プロジェクトのさまざまなメニューのなかで、最も重要であり、最も象徴的な対策は、流水型ダムだとシンプルに考えている...

2021年08月05日 06:00

22年度、ついに延伸開業 地下鉄・七隈線が博多駅へ(5)NEW!

 薬院は、七隈線では天神南に次いで2番目に乗降人員が多い駅である。西鉄・天神大牟田線への乗り換えが可能なほか、駅前から博多駅方面へのバスも運行しており、交通結節点の様...

2021年08月04日 17:02

中国の再エネ巨大市場 脱炭素化を追い風に「技術覇権」狙う(前)

 中国は世界の太陽光パネル生産量の約8割を占め、風力発電設備でも主要生産国の1つだ。巨大エネルギー市場をもつ中国は石炭火力発電が主力であるが、再生可能エネルギーが急拡...

2021年08月04日 16:25

【業界を読む】斜陽産業だが改革進まず、新聞は恒常的な赤字事業へ(後)

 毎日新聞は毎日新聞グループホールディングスの連結決算の公表がなくなり、持株会社と毎日新聞社の単独決算だけが公表されたため、別表は毎日新聞社単独の業績推移と決算内容で...

2021年08月04日 16:12

【コロナ禍の明暗(1)】三井物産は通期予想を上方修正、JR九州は最終黒字 第1四半期決算

 三井物産が3日、2022年3月期第1四半期の決算発表(連結)。売上高は2兆6,580億円(前年同期比44%増)、税引前利益は2,561億円(同151.2%増)、純利...

2021年08月04日 16:00

中国経済新聞に学ぶ~中国の新型ディスプレー 産業規模は世界一(後)

 欧陽氏は今年の世界ディスプレー産業大会で、「世界のディスプレー産業の規模は1,000億ドル(約10兆9,414億円)を超え、中国は世界のディスプレー産業の発展におけ...

pagetop