2022年06月27日( 月 )
by データ・マックス

都市は液状化にどう備えるべきか?(中)

福岡大学 工学部社会デザイン工学科 教授 村上 哲 氏

 液状化は、全国すべての都市が潜在的に抱えるリスクだ。2011年の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)では、関東地方を中心に広範囲で液状化が発生。ライフライン寸断や住宅倒壊などの大規模な液状化被害をもたらした。16年の熊本地震でも、熊本平野を中心に熊本県内11市町村で多数の液状化が確認され、インフラや住宅などに深刻なダメージを残した。実際に被災した都市だけでなく、全国の安心・安全なまちづくりを進めていくうえで、液状化対策は避けて通れない課題になっている。なぜ液状化が起きるのか。液状化対策とはどのようなものか。対策を進めるうえでの課題は何か――などについて、液状化災害の専門家である福岡大学社会デザイン工学科教授・村上哲氏に話を聞いた。

液状化対策は公的資金で行うべき

 ――個人住宅の場合は、所有者自ら液状化対策を行う必要があるわけですよね。

 村上 そうです。ただ、住宅の液状化対策を個人で行うとなると、300万円ほど費用がかかってしまいます。土地の価格が安い地域の場合は、液状化対策をするよりも、安全な土地に引っ越すほうがベターだという話になってしまいます。また、それだけのお金をかけて液状化対策したとしても、その分、その土地の資産価値が上がるわけでもありません。液状化リスクの高い土地が敬遠され、次第にまちが空洞化することが懸念されます。まちづくりを考えるうえで、局所的にであっても、そういう場所が存在して良いのかという疑問が残ります。

 私としては、まちの将来を考えれば、公的資金を投入して液状化対策を行うことが大事なのではないかと考えています。民地に税金を投入することに対して、多くの理解を得るのは難しいと思いますが、国民の安心・安全を守るために税金を入れることは、必要な政策だと考えています。個人の資産を守るというより、まちの姿や未来を守るという観点から、大事なことだと考えています。

 液状化対策事業を実施している地域は、今のところ地震などで被災した地域に限られていますが、今後は、液状化のリスクが高い地域で、住宅が密集している地域については、実際に被害が出る前に、地下水低下工法をはじめ何らかの対策を講じる必要があると考えています。

 ただ、対策を講じたとしても、「絶対大丈夫」ではありません。建物だけでなく、宅地にも保険をかけられるような仕組みづくりが必要になってきます。保険があれば、個人でも安心して液状化対策を実施しやすくなると思います。
 また、地下水低下工法で液状化対策を講じたとしても、その効果が未来永劫続くわけではありません。効果が続くとしても、せいぜい30~50年程度でしょう。液状化対策は、一定期間猶予をもたせるものと考えたほうが良いと思います。住宅を建て替えるタイミングで、個別の液状化対策を行うのが望ましいでしょう。

「絶対液状化しない」と言い切れる土地はない

 ――一般論として新興住宅地では、もともとは居住に適さない湿地や沼地だった場所であったケースも多いと思いますが、大丈夫なのでしょうか。

 村上 私自身、「新興住宅地は大丈夫か?」とよく聞かれるのですが、もちろん大丈夫だとは言い切れません。その土地の地盤が健全かどうかは、数十mピッチの非常に狭い範囲で大きく変わってくるからです。住宅が10軒あれば、その範囲で条件が変わっていることもあるわけです。たとえば、もともと城の堀だった場所を埋め立てた住宅地があったのですが、一列だけ液状化の被害を受けたケースがありました。古くからある土地だったら大丈夫かというと、必ずしもそうとは限りません。

 ――まず素人では判断できないと思われますが・・・。

 村上 それはそうでしょう。東北地方太平洋地震の後、茨城県の弁護士さんと一緒に被災した住民相談会に参加したことがありました。液状化して傾いた住宅の補償などに関するご相談を受けたのですが、お話を聞いていて、私としても辛かったです。まだ若い方で、住宅を買って2年も経っていないのに、家が傾いた方がいらっしゃいました。そのほうが、「自分は変な土地をつかまされたんじゃないか」とおっしゃっていました。

 それを聞いて、我々専門家と違って一般の方は、正式な手続きを経て買った土地や住宅は「大丈夫なもの」と思うものなのだと知りました。実際には大丈夫じゃない場合もあるわけですが、「知らなかった人が悪い」では済まないところがあると感じました。これはこの方だけの問題ではなく、すべての国民が遭遇するかもしれない問題でもあるわけです。

 ――たとえば、天神や博多などは大丈夫なのでしょうか。

 村上 やはり、絶対に大丈夫とは言えないと思っています。福岡には警固断層や宇美断層など、いくつかの断層があります。05年の福岡県西方沖地震では、警固断層の北西部が動きました。福岡市から比較的遠い断層が動いたということであり、その意味では、福岡市は救われたといえます。

 ――アイランドシティはどうでしょうか。タワーマンションが次々と建っていますが・・・。

 村上 建物は設計基準を満たしていると思いますので問題ないと思いますが、道路や共同溝などのライフラインの液状化対策がどこまでちゃんとできているかは心配です。タワーマンションが大丈夫だとしても、水や電気がストップすると大変ですからね。

(福岡大学工学部社会デザイン工学科・防災・環境地盤工学研究室資料)
(福岡大学工学部社会デザイン工学科・防災・環境地盤工学研究室資料)

福岡市内にも液状化リスクがある

 ――福岡都市圏の液状化リスクを調査する予定は?

 村上 まさに、これからやろうとしているところです。先の地震では、博多湾の海岸部の埋立地で液状化が確認されましたが、内陸部では液状化の報告はほとんどありません。ただ、私が福岡のまちを歩いてみると、今のところ確証はありませんが、液状化による沈下だと思われる場所はいくつかあるのではないかと思っています。

 福岡市に近い警固断層の南東部が動けば、福岡市に大きな被害をもたらすリスクがあります。その場合、多くの場所で液状化が発生するでしょうし、傾斜地にある古い擁壁などが崩落することが予想されます。福岡市内には傾斜地の住宅地が結構あるのですが、擁壁などが崩れると、住民は避難できなくなるリスクがあります。現在、「具体的にどれだけの被害が出るのか」を検証するため、ボーリングデータをチェックしながら、準備を進めているところです。

 ただ、ボーリングデータは3,000本ほどあり、これを基に液状化層を区分するのは、人手で行うとなるとかなり大変ですので、この層区分の作業を人工知能(AI)でやろうとしています。これを通じて、福岡市内の液状化の危険性を評価し、どういう場所にウィークポイントがあるのか、明らかにしようと考えています。

 たとえば、昔は福岡城の堀から天神・中洲に向かって水路が通っていましたが、現在は国体道路になっています。国体開催の際、水路を埋めて道路にしたわけです。大濠公園も、もともとは福岡城の堀の一部だったものを、南側を埋め立てて、公共用地として活用しています。

 福岡市内にはもともと多くのため池がありましたが、そのため池も、今ではだいぶ埋め立てられています。古い地図と照らし合わせないと、ため池だったかどうかはわからない状況です。姪浜には昔炭鉱がありました。地下がどうなっているのか、これも調べてみないとわかりません。

 気候変動も重要です。多くの雨が降ると、地下水位が上昇します。地下水位が上がると、液状化のリスクも上昇するからです。私は以前、関東平野で気候変動を加味した液状化にともなう経済損失を試算したことがあるのですが、この方法を使って、福岡平野でも試算したいと考えているところです。

(つづく)

【フリーランスライター・大石 恭正】

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