2024年04月25日( 木 )

国鉄分割民営化の制度の再設計(中)

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運輸評論家 堀内 重人 氏

 国鉄の分割民営化が実施されてから34年が経過するが、20年をすぎた辺りから、JR北海道の事故の多発や不祥事などの問題が顕在化し、完全に制度が疲労している。コロナウイルスが終息したとしても、元通りに旅客需要が戻ることは難しく、これを契機に制度の再設計が必要だ。

国鉄民営化の制度疲弊

新幹線 イメージ 経営状態が厳しい訳ではないが、JR西日本は死傷者を出すような重大事故を多発させただけでなく、1つ間違うと重大事故につながる重大インシデントを発生させるなど、「安全性」という側面で見れば、問題がある企業体質の会社になってしまった。

 このように、国鉄分割民営化は実施から34年が経過し、完全に制度疲労しているといえる。また国鉄分割民営化とは直接関係がないが、並行在来線問題も顕在化している。「JRを第二の国鉄にしてはいけない」という考えの下、新幹線が開業すれば、赤字必死の並行在来線を、JRから経営分離しても良くなった。

 この問題は、「新幹線さえ開通すれば地元が潤う」という考え方に起因している。30年以上も昔は、新幹線が開業すれば地元が潤ったことはたしかだが、現在は「ストロー効果」という、富が大都市に吸い取られてしまい、地方の衰退が加速する現象が見られるようになった。

 そこへプラスして、並行在来線の損失補てんと、運賃の値上げや輸送の分断という問題が加わる。新幹線が開業すれば、「赤字必死の並行在来線を切り離しても良い」という制度は、旅客輸送密度しか見ておらず、「貨物輸送では幹線に位置する」という視点が、完全に欠落してしまっている。

 貨物輸送に関しては、(独)鉄道建設・運輸施設整備支援機構が、平均費用とアボイダブルコストの差額を、「貨物調整金」としてJR貨物に支給しているため、JR貨物の経営に対する問題は発生していない。

制度の再設計が必要

 そんな中、2020年度は世界的なコロナウイルスによるパンデミックにより、JR各社が赤字経営に陥ってしまい、国鉄分割民営化の制度疲労の問題を、より鮮明にさせた。コロナウイルスが終息したとしても、元通りに旅客需要が戻ることは難しく、これを契機に制度の再設計が必要になったといえる。

 筆者は、まずは経営危機が顕在化したJR北海道やJR四国は、国有化や公社化を検討するなど、公的関与を強める必要があると考えている。

 次に、仮称「JRホールディングス」という持株会社の創設である。国鉄分割民営化により、会社間に跨る列車のサービスが悪くなった。直通列車が廃止され、境界の駅で乗り換えを強いられるなど、不便になっている。

 国鉄が分割民営化された当初は、持株会社は商法で認められていなかったが、その後は商法が改正され、持株会社の創設が可能となった。阪急電鉄や阪神電鉄も、阪急阪神ホールディングスの傘下に入っている。「JRホールディングス」のメンバーは、主に国鉄・JRで運行管理の実務に携わっていたOBや学識経験者から選任すれば良いだろう。

 3番目として、JR東日本、JR東海、JR西日本、JR九州は、株式を上場しており、本州3社は完全に民営化が達成されている。これに関しては、「政治的な介入がないから良い」という意見もあるが、運賃・料金の改定だけでなく、電化や複線化などの設備投資に関しては、認可や許可、届け出が必要であるため、政府との関わりを排除することは困難である。

(つづく)

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