2024年04月19日( 金 )

ウッドショックで注目、国産材の現状と「九州モデル」

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 ウッドショックにより、国産木材の使用率向上に注目が集まっている。一方で、植林から伐採までにかかる期間のみならず、人材・流通・設備などを含めた多事情を巻き込んだ施策、システム形成が必要となるため、障害も多い。このようななか、九州エリアでは、国産木材の使用率がもともと高かったため、ほかのエリアに比べると影響は小さいと言われている。

供給倍増していた国産材

 日本は、国土の3分の2を森林が占める世界有数の森林国である。森林面積のうち約4割は人工林が占めているが、一般的な主伐期である樹齢50年生を超える人工林面積は10年前の2.4倍に増加。その蓄積量も増加傾向にあった(図1)。

(図1)人工林の樹齢別面積の変化
(図1)人工林の樹齢別面積の変化

 実は、国産材供給量は2002年の1,692万m3を底として増加傾向にあり、19年には3,099万m3と増大してきた。この50年間で活用される樹種別の資源構成も大きく変化しており、天然林由来の広葉樹から、人工林由来のスギやヒノキ、カラマツに大きくシフトしている。とくにスギの素材生産量は増加しており、全体の素材生産量が大幅に減少しているにもかかわらず19年には1,274万m3となり、1967年の1,235万m3を超えている。需要面では、住宅着工戸数が減少している一方、環境配慮への関心の高まりなどを背景に、さまざまな企業が木材利用に関心を持ち始め、新たな木材利用技術も開発されている。また、燃料材利用の増加もあり、輸入材を含めた全体的な木材利用量は、近年増加傾向にある。

 林業経営体には、持続的に森林を管理するとともに、豊富な人工林資源を有効に活用し、マーケットニーズに応じた木材供給が求められている。このことは、林業・木材産業を安定的に成長発展させ、山村などにおける就業機会の創出と所得水準の上昇をもたらす産業へと転換することで「成長産業化」へつながるとして期待されている。いくつかの地域では林業が成長過程にあるが、その地域の現況とともに、ウッドショックの影響を見てみよう。

躍進する東北・九州

 林業生産額(国内における林業生産活動によって生み出される木材、栽培きのこ類、薪炭等の生産額合計)は、05年以降は約4,000億円程度、14年以降は約4,500億円以上で推移しており、19年には4,976億円となった。このうち木材生産の産出額は、丸太輸出、木質バイオマス発電などの新たな木材需要により増加傾向で推移しており、19年には2,700億円と4年連続で増加。素材生産量を樹種・用途別に見ると、スギが58%、ヒノキが14%、カラマツが10%、広葉樹が9%となっている。

 主要樹種の都道府県別素材生産量を見ると、19年は多い順に、スギが宮崎県、秋田県、大分県、ヒノキが高知県、熊本県、岡山県、カラマツが北海道、岩手県、長野県、広葉樹が北海道、岩手県、福島県となっている。国産材の地域別素材生産量では、19年は多い順に、東北(25%)、九州(24%)、北海道(15%)となっている(図2)。国産材の素材生産量が最も少なかった02年と比較すると、資源量の増加、合板への利用拡大などにより、すべての地域で素材生産量が増加しているが、とくに東北・九州で伸びていることがわかる。

(図2)国産材の素材生産量の推移
(図2)国産材の素材生産量の推移

 全国に拠点を持つ大手ハウスメーカーは、「多くのハウスメーカーでは設計を本社で行い、資材の調達は拠点ごとに行っています。もともと九州、とくに福岡では国産の木材を利用することが多かったのでウッドショックの直接的な影響は軽度と聞いています」という。

 戸建木造住宅着工数が横ばいを続けているなか、木材素材生産量を増加させ、国産材木の利用率が高い九州は、住宅業界と林業のバランスがその他のエリアよりも取れていると注目を集めている。

「九州モデル」の確立へ

 植林という課題もある。林野庁によれば「主伐による丸太生産量が増加する一方で、人工造林面積は主伐面積の3~4割程度となっており、林業に適した場所であっても、再造林が行われていない状況が確認されている」としている。

 再造林率が低位な状況が続けば、将来の森林蓄積の減少を招く恐れがあり、長期的には林業経営体や木材産業の事業者の事業継続にも影響がある。宮崎大学・藤掛一郎教授は、論文「素材生産持続可能性分析のためのシミュレーション手法 ─宮崎県民有スギ人工林を対象として─」(19年3月、林業経済)において、宮崎県の大淀川流域や広渡川流域の民有林では、現状の主伐量と再造林率のままでは、25~60年後に35年生以上で主伐できる人工林がなくなると試算した。主伐・再造林を適切かつ計画的に進めていくことが、持続的な森林管理に必要不可欠といえる。

 森林蓄積の減少において深刻とされているのが、植林数の低下である。これには林業経営者および労働者の減少が理由として挙げられており、国産の木材需要が低迷していたことが大きな要因と見られている。

 「以前は外国産よりも国産のほうが安く需要もあった。今回のウッドショックで需要、価格ともに上昇したが、一時的なものに過ぎないのではないか」((株)九州木材市場社員)。

 林業白書によれば、主伐した後も再植林がされにくい理由の1つとして、「植栽時と比較して木材価格が低下し、森林所有者が再植林を行う意欲をもてないこと」を挙げる。事実、山元立木価格や国産材素材(丸太)価格は、1980年をピークに下落し、近年はほぼ横ばいで推移している状況だ。

 今回のウッドショックでは、影響を受けた地域と受けなかった地域との差が、より顕著となった。九州は林業と住宅産業の需要・供給バランスが比較的取れているとされているが、持続的可能な社会形成に万全を期しているわけではなく、あくまでも“現状”バランスが取れているだけだ。とくに林業においては人材、流通の課題だけではなく、価格が安定し、次世代が安心して働くことができる社会的仕組みが必要だ。この社会的仕組みが生まれてこそ、「九州モデル」として確立するだろう。

【麓 由哉】

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