2024年04月26日( 金 )

福岡・天神に「文喫」2号店、出版取次会社がつくる新しい本屋とは

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文喫 福岡天神

本と出会うための本屋

 コロナ禍による巣ごもり需要や「鬼滅の刃」ブームに起因する特需により、2020年の書店の倒産件数は過去最少の12件となった。しかし一方で、活字離れやオンライン書店の乱立、電子書籍の普及などに起因して、「リアル書店」は年々数を減らしてきているという現状がある。本を手に取って読む人が少なくなっている昨今、出版取次の大手である日本出版販売(株)によって新たに生み出されたのが、入場料のある本屋「文喫」だ。

 東京・六本木の1号店に続き、今年3月末には福岡・天神の岩田屋本店に2号店となる「文喫 福岡天神」がオープンした。文喫の共通コンセプトは、「本と出会うための本屋」――商品ラインナップやレイアウトなど、空間づくりに工夫が凝らされている。

 文喫は入場料が設けられているのが特徴である。これにより、本と出会うモチベーションを高め、本と向き合う時間を提供している。スタッフが厳選した約3万冊の本は、ただ陳列されているわけではない。本の表紙が見える配置に工夫を凝らしたり、隣り合う本に関連性をもたせたり、あえて崩したりといったように、客自身が本の意味を咀嚼することを狙い、意図をもって並べられているのだ。店内には多様なコンセプトをもったスペースがある。静かに本に没頭できる閲覧室や本をじっくり吟味することができる選書室、一息つくために用意された喫茶スペースなど、利用者が希望する環境で本に接することができるようつくられている。

学びのサイクルに

作業可能なスペース
作業可能なスペース

 東京の次に、なぜ福岡が選ばれたのか――。文喫福岡プロジェクトは、岩田屋三越・細谷敏幸前社長(現・三越伊勢丹HD社長)のアイデアからスタートした。

 文喫は、日本出版販売のグループ会社が運営している。文喫 福岡天神がオープンする前、昨年11月までは、同じく日本出版販売のグループ会社が運営する書店・リブロが営業していたが、岩田屋が施設の魅力向上を図るうえで、細谷氏から「リブロを文喫へ転換してくれないか」という打診があったのだという。

 そこで、「せっかくなら六本木とは違う業態を目指したい」(日本出版販売・リノベーション推進部・武田建悟氏)と、新たなスタイルを模索した結果、岩田屋のカルチャースクール「学 IWATAYA」と融合させた現在のかたちに。本で知識を深め、それを実践する場としてカルチャースクールの講座を利用する。学びの1つのサイクルを、文喫で完成させることを狙ったものだ。

 せっかく入場料を払って入る本屋なのだから、普通ならば「何か1冊は読まなければ」「買わなければ」と思ってしまいがちだ。だが、武田氏は文喫を、あまり肩肘を張らずに気軽に楽しんでもらえる場所にしたい、との思いを話す。

 「きっかけは何でもいいと思います。コワーキングスペース的な使い方も、コーヒーが好きならコーヒーを飲むためだけでも、暇つぶしのためでも。わざわざ行きたいと思ってもらえる場所にしたい。この場所に愛着が湧けば、いつしか自然と“自分だけの1冊”との思いがけない出会いが生まれ、本を購入する流れができるはず」(武田氏)。本に無関心だった人も、偶然目に入った本から興味をもち、本を入り口にいずれ講座にも足を向ける、という動線が生まれてくることにも期待しているようだ。

 文喫の利用者は現在、普段から岩田屋を利用する40~60代の方々や、カルチャースクールの生徒が中心。武田氏はここにファミリー層やビジネスパーソンを加えたいとしたうえで、「本が身近ではない人を呼び込みたい」と強調する。書店業界がダウントレンドとなるなか、限られたマーケットを奪い合うのではなく、広げる道を模索している。

 本を選ぶ過程に価値を見出しているところに、同店におけるプロセス経済の姿を見た。物があふれかえる世界では付加価値が求められるが、同店の付加価値とは「本との偶然の出会いを生む空間」だ。本が人を豊かにし、人が社会を豊かにする。文喫が提供する空間および時間は、そのきっかけを生む可能性を秘めている。

【杉町 彩紗】


<INFORMATION>
文喫 福岡天神

所在地 :福岡市中央区天神2-5-35 岩田屋本店本館7階
営業時間:午前10時~午後8時(L.O.午後7時)
     (※最新の営業時間は店舗HPでご確認ください)
入場料 :平日1,650円(税込)/土日祝1,980円(税込)
     小・中学生:全日 550円(税込)
URL :https://bunkitsu-tenjin.jp

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