2024年03月29日( 金 )

『日本弓道について』(8)弓の達人・那須与一、扇の的を再現

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 今年5月に弓道の写真集を出版した。父を師として、42歳から弓を始め、弓歴は30年を過ぎた。弓を初めた頃から30年かけて撮影してきた、名人といわれる先生、弓道大会、弓にまつわる演武や祭などを載せた写真集だ。長年、弓を続けてきた者として、弓についてつづる。

平家物語に沿って再現

 弓道に興味のない人でも、源氏の武将・那須与一が源平合戦で平家の繰り出す船上の扇の的を射った話はご存知だろう。

 那須与一が扇の的を射当てたのが真実かどうかを検証・再現したテレビ番組が放映された。2021年5月8日放送のNHK・BSプレミアム「伝説の真相に迫る『偉人にチャレンジ』」である。

 筆者はたまたま当日の新聞テレビ番組覧を見て放映を知った。番組では史実が真実かどうかを検証するため、平家物語に沿って再現した。時は1185年(元歴2年)3月28日午後5時ごろ。夕日が落ちる入江の海岸、的までの距離77mと予測。

 まず現在の弓の名人は誰か。弓道大会で全国1位の実績がある弓道家を選ぶところから始まる。白羽の矢が立ったのは、岡山県在住の江戸時代から続く古流弓術・日置當流(へきとうりゅう)当首の徳山陽介氏である。

 (公財)全日本弓道連盟の遠くに矢を飛ばす遠的は的までの距離60mで、的の大きさは大的で5尺2寸(直径1.6m)、近的は距離28mで12寸(36cm)。扇の的とは比べものにならない。

 そして使用する矢である。筆者が使用している矢は矢尺(矢の長さ)85㎝、重さ32g。今回使用する矢は、当時と同じ鏑矢の先に鉄製のクワガタ状の鏃(やじり)を使う。かなり重い矢となり、私の矢の5~6倍はあるだろう。

 鏑矢は射ると「ヒュー」と音がして飛んで行く。古くから魔除けに使われた矢だ。距離と矢の重さから、矢を射る角度は普段よりも高く、放物線状に飛ばすことになる。徳山氏は自宅道場で何度も練習を行った。

見事、小舟の上で揺れる扇に命中

 那須与一は鎧兜を装着し馬上から、平家の繰り出した一艘(そう)の船の的に向かって矢を射ったのであるが、今回のチャレンジでは浜辺の波打ち際から矢を射っていた。小舟の上に立てられた扇の的は波に揺られて動くから、矢の飛ぶ時間と扇の的の揺れ具合を計算して矢を放ったのである。

 徳山氏は矢を放つが、惜しくも的の前後に飛び、矢は海上へ落ちた。最後の10射目は扇の的の近くであった。徳山氏はメラメラと闘志が芽生え、最後の1本を引かせてほしいと、扇の的に狙いを定めた。那須与一は南無八幡大菩薩と念じて矢を放ったとあるが、徳山氏も同じ気持ちであっただろう。

 夕日を背景に放たれた矢は放物線を描いて、小舟の上で静かに揺れる扇に命中したのである。そして扇はひらひらと海中へ落ちて行った。「見事!」である。

 那須与一を含めた「伝説の真相に迫る『偉人にチャレンジ』」は7月25日、BSプレミアムで再放送される予定。興味のある方はぜひご覧ください。

近的の36㎝霞的、矢が真ん中にあたるのを「的心」と呼ぶ
近的の36㎝霞的、矢が真ん中にあたるのを「的心」と呼ぶ

福岡地区弓道連盟会員
錬士五段
池田 友行

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