2024年04月27日( 土 )

コロナ患者の重症化抑止の望み「抗体カクテル療法」~ネックは入院使用

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 新型コロナウイルスの従来株が、感染力の強いデルタ株に置き換わり、全国的に患者が急増。政府は、医療提供体制を転換し、中等症以下の患者の入院制限を打ち出した。そのなかで軽・中等症患者向けの第4のコロナ治療薬「抗体カクテル療法」に、医療現場は重症化抑止の望みをつなぐ。

 「抗体カクテル療法」は、2種類のモノクロナール抗体薬を組み合わせる治療法。昨年10月、米国のトランプ前大統領が感染した際、未承認薬として使われたことで知られる。コロナ感染者の血液から採取、複製したコロナウイルスの働きを抑える抗体を投与し、ウイルスがヒトの細胞に侵入するのを防いで重症化を抑える仕組みだ。

中外製薬
中外製薬

 国内では、厚労省が7月19日、審査を簡略化し2剤を特例承認した。承認申請は6月29日。異例の“スピード承認”だった。

 薬剤は点滴で投与する「カシリビマブ」と「イマデビマブ」。発売した中外製薬(株)(東京都中央区)によると、入院していないコロナ患者を対象にした海外の第III相臨床試験では、2剤の「抗体カクテル療法」によって、入院または死亡のリスクが70%減少したという。

 全国初のコロナ専用病院になった大阪市立十三(じゅうそう)市民病院は、承認10日後に抗体カクテル療法を導入。8月5日現在、軽・中等症の患者8人に投与した。

 大阪市立十三市民病院の西口幸雄院長は、「5人の患者は、経過がまだ追えませんが、3人の患者は投与した翌日すぐに解熱しました。薬の効果については、ハッキリしたことはいえませんが、“効きそうな感じ”がしています」。使用した手応えをそう説明する。

 しかし制約も少なくない。まず、発症して7日以内の患者にしか使えない。十三市民病院では発症7日目の患者に投与したが、効果がなく次の治療に移行した。

大阪市立十三市民病院
大阪市立十三市民病院

 入院患者にしか投与できないのも、使用を大きく妨げている。成田赤十字病院(千葉県成田市)の馳亮太感染症科部長によると、米国国立衛生研究所(NIH)のコロナ患者治療ガイドラインによると、「カシリビマブ」と「イマデビマブ」を組み合わせる抗体カクテル療法は、外来患者への使用を認めている。

 国内で承認されたコロナ治療薬は、今回の2剤を含め5剤。このうち3剤は、他の治療薬からの転用剤。2剤だけが純粋なコロナ治療薬といえる。2剤による抗体カクテル療法で外来患者を治療できるようになれば、自宅やホテルなど療養施設で使えるようになり、病床逼迫が緩和され、コロナ診療の幅も広がる。

 大阪市立十三市民病院の西口院長は「2剤の薬価はまだ決まっていません。今は患者に無料で投与できます。多くの患者に使っていこうと思っています」と話す。

 ところが、西口院長の思いとは裏腹に、政府は患者の入院制限を始めた。抗体カクテル療法は、発症から日が浅いうちに投与しないと効果が得られないのに、入院患者にしか使えない。

 菅義偉首相は8月2日、在宅療養の患者も使用対象に追加する方針を表明した。これに対し厚労省は、入院患者に投与して容体を安定させ在宅療養に切り替える使い方を考えているという。

 政府内で甲論乙駁(こうろんおつばく)する間に、確認された全国のコロナ患者は8月5日に初めて1万5,000人を超えた。

【南里 秀之】

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