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2021年09月15日 14:00

「おかでんチャギントン電車」を通じた子どもから大人への交通教育(後)

運輸評論家 堀内 重人 氏

「チャギントン電車」は「顧客満足」である

 「チャギントン電車」に乗車するには、事前の申し込みが必要であるが、岡山電気軌道(株)へ直接申し込むことはできず、ローソンで予約を行い、チケットを発行してもらう必要がある。乗車時にチケットを係員に見せて乗車することになる。

 同社は旅行業も実施しているため、「岡山電気軌道でも販売すればよいではないか」という人も多いと思うが、同社に聞いたところ、「実績のあるローソンにお願いしている」という旨の回答を得た。

 「チャギントン電車」に乗車するには、平日であっても大人が3,400円、1歳以上の子どもが1,900円で、割高と感じてしまう。このような割高な代金であれば「誰が利用するのか」となるが、筆者自身、そのあたりをたしかめるために、2019年12月27日に「チャギントン電車」に乗車している。

ヂャギントン電車 イメージ 筆者は、岡山駅前電停を午後3時30分頃に出発するコースに乗車した。主なお客は、幼少の子どもとその親や祖母であった。筆者が乗車する前の「チャギントン電車」には、地元の幼稚園児が団体で乗車していた。

 車内では、ナビゲーターのお姉さんが紙芝居を実演したり、クイズを出したりして楽しい雰囲気を演出し、子どもたちは大満足の様子であった。

 筆者はその様子を見て、「『チャギントン電車』は『顧客満足』であり、クルーズトレインのノウハウがフィードバックされており、小嶋社長は『ななつ星in九州』にきっと乗車している」と感じた。

 「ななつ星in九州」などのクルーズトレインと「チャギントン電車」とでは、価格や利用者層は大きく異なるが、「顧客満足」「高付加価値化」という点で共通している。

 クルーズトレインは熟年夫婦などが主な顧客で、「チャギントン電車」は幼児とその親や祖母といった違いはあるが、利用者が大変満足している点は同じである。そして「単なる移動手段」ではなく、乗車することを目的とした人的サービスが優れており、「また利用したい」というリピーターを獲得している。

 「チャギントン電車」の場合も、筆者よりも先に乗車していた幼稚園児たちは、「こんな記念証を3枚ももらった」「楽しかった」「また乗りたい」と大喜びであり、引率していた幼稚園の先生方も「子どもがこれだけ喜んでくれるのであれば、幼稚園の行事として定着させたい」と手応えを感じていた。

大人に対しても公共交通の存在を教える

 「チャギントン電車」は岡山駅前電停などに停車していたとしても、非常に目立つ存在であるから、岡山市民に対しても同社の宣伝になる。

岡山市は県庁所在地であるだけでなく、人口が70万人を超える政令指定都市でもあるが、日常生活の移動手段は自家用車が主流となっている。また、路線バスを運行する事業者が8社もあり、事業者同士が競争し、各社の経営体力が削がれている状況にある、といえなくもない。

 そのような状況下で登場した「チャギントン電車」は、乗車することが楽しみの電車であるから、値下げする必要がないだけでなく、人的サービスを通じた客単価の向上をもたらした。また車内では、同社が運行する路線バスの宣伝も実施されており、路面電車だけでなく、路線バスの利用促進にも繋がる可能性がある。

 主な顧客が幼稚園児を含む子どもであることは、「子どもから大人への交通教育」を実現させる。地方へ行けば、自家用車しか選択肢がなかったりするだけでなく、公共交通のなかでも、とりわけ路線バスに対する関心が低かったりする。

 そのようななかで誕生した「チャギントン電車」は、大人に対しても公共交通の存在を知らせると同時に、子どもと一緒に公共交通へ乗車しようとする動機を与える。また、子どものころに「チャギントン電車」に乗車した楽しかった思い出は、大人になってからも心の財産になるだけでなく、公共交通の概念が脳裏に刻み込まれる。

 「チャギントン電車」という子ども(幼児)、親、祖父母の三世代にわたって楽しむことができる公共交通の誕生は、少子化、中心市街地の空洞化、規制緩和にともなう競争激化による利用者減少に苦しむ地方の交通事業者とって、新たな活路を見出す手段になるといえる。

(了)

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