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2021年09月17日 15:00

日本初、全ゲノム解析でがん・心臓病リスク検査~遺伝子検査で病気がわかる日は近い?(後)

 がんや心臓疾患のリスクを調べるため、健常者を対象とした人の全ゲノム(遺伝情報)解析による遺伝子検査が今年7月にスタートした。国内初の取り組みという。筑波大学附属病院つくば予防医学研究センターが、個々人への最適な医療提供を行う「プレシジョン・メディスン(個別化精密医療)」の実現を目指すベンチャー企業(株)iLAC、同大学プレシジョン・メディスン開発研究センターと共同で実施している。遺伝子の影響が大きい病気にかかるリスクは人の遺伝子からわかるため、今回の取り組みは遺伝子検査や遺伝子医療にとって大きな一歩となる。

遺伝子の変化、病気か「個性」か?

つくば予防医学研究センター副部長・右田王介准教授
つくば予防医学研究センター副部長
右田王介准教授

 遺伝子検査により、100%の精度で病気を判断することはまだできない。「遺伝子の変化をもたらすDNAの配列は1人ひとり異なっており、そのほとんどは疾患とは関係していません。遺伝子を調べると、誰でも標準的なDNA配列とは異なる遺伝子をもっています。このような遺伝子の変化は、『個性』であり、病気とは見なされない場合があります。そのため、今まで病気の発症に関わることが報告され、疾患に関係すると判断される遺伝子の変化のみ、そのリスクと対策を参加者に報告しています」(右田氏)。

 病気か個性かわからない悩ましい結果が出た場合は、その判断について「ゲノミックボード」で慎重に検討が行われる。遺伝子の内容、つまりDNA配列が同じ人は誰1人としていないため、遺伝子の並び方()で個人を特定できるほどだ。この解析結果の精度を上げるには、病気と関係しない1人ひとりの遺伝子の違いである「個性」を明らかにしていく必要がある。

筑波大学発 全ゲノム解析技術を活用した「ゲノムドック」 研究実施体制

 また、現時点での「個性」と判断は、完全なものではない。10~20年後には研究が進んで解釈が変わり、病気との関係が明らかになり得ることもある。そのため、解釈が将来変わった場合にどのように伝えていくかが課題となる。加えて、ある遺伝子の変化が通常にはほとんど見られないことは、病気と関係すると判断される根拠になる。

そこで、遺伝子変化についてよく蓄積されている欧米人にほとんど見られなかった遺伝子の変化は、疾患と関係していると疑われやすい。しかし、欧米人と異なる遺伝的特徴をもつ日本人には、ありふれた遺伝子の変化である場合もある。日本人あるいは日本で生活する集団の全ゲノム解析により、「個性」と病気のリスクのある変化を調べる遺伝子データベースが重要になる。今後、日本での検査結果の解釈を確立する新しい基準になると期待されている。

病気の遺伝子を知るリスク

 遺伝子検査は予防医療に役立つとともに、病気になりやすい遺伝子をもっていることがわかると、その疾患が発症していないにもかかわらず、リスクの有無のみが社会的な生活に影響を与えかねない。

 右田氏は「遺伝子検査のサービスが進んだ米国では、健康保険や雇用において、遺伝情報を用いた差別的な扱いや本人・家族に遺伝子検査を要望することを禁止するという遺伝情報差別禁止法があります。日本ではまだそのような法律がないため、遺伝子解析の目的や意義を多くの人に知ってもらい、これら個人の遺伝情報の扱いについて議論を行い、国民の合意を得ることが必要です」と指摘する。

 また、遺伝子検査を受けるにあたって、病気の遺伝子をもっていることを知りたいと希望していても、実際に結果を聞いて動揺する人は少なくない。事前に検査を受ける目的と、見つかった変化への対応について話し合っておく「遺伝カウンセリング」などの対応を考える必要があるという。

 全ゲノム解析をはじめとする多くの遺伝子解析はまだ始まったばかりであり、今後のフォロー体制について、厚労省の有識者会議でも議論されている。

つくば予防医学研究センター部長・鈴木英雄病院教授
つくば予防医学研究センター部長
鈴木英雄病院教授

 全ゲノム検査は、健康寿命を延ばすファクターとして、今後の医療を変える可能性がある。今は研究段階のため、1人あたりのコストは57.2万円(消耗品費のみ)であるが、予防医療の自由診療として実用化する際には人件費などを考慮する必要がある。

このため、検査費用コストはさらに高額になることが見込まれるという。「ゲノム解析のビジネスは今後、安価で少数の遺伝子を解釈して簡易的な結果を出す検査と、高価格で数多くの遺伝子を解釈して詳細な結果を出す検査に二極化するでしょう」(鈴木氏)。個人の遺伝子や体質に合わせた医療への取り組みが進むとみられている。

 筑波大学では今後、東北メディカル・メガバンク機構をはじめとする国内外の遺伝解析研究の連携を計画している。日本医療研究開発機構(AMED)などでは、ゲノム遺伝情報の大規模なデータベースづくりを目指した研究も実施されている。「遺伝子医療」が普及するのはまだ先であるが、近い未来、その在り方について議論が行われるだろう。

※:遺伝情報(ゲノム情報)は、個人情報保護法における個人情報として扱われる。 ^

(了)

【石井 ゆかり】

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