2021年12月03日( 金 )
by データ・マックス

コロナを経たこれからの建築的考察 「復興されるべき新しい都市」とは―(後)

建築家 有馬 裕之 氏

ものづくりにおけるソフト充実の重要性

建築家 有馬 裕之 氏
建築家 有馬 裕之 氏

 今の日本におけるものづくりの現場では、サプライチェーンがグローバル化していて、コロナ禍でさまざまなプロダクトが日本に届かない、あるいは届くのが遅れる、働き手が日本に来られない、といった状況が起きてしまっています。「ウッドショック」などが良い例でしょう。そうしたなか、グローバルなネットワークでのものづくりが中断され、早急なシフト変更が進んでいるのですが、たとえば足元を固めて、もっとローカルな旧来のものづくりの在り方に戻るというやり方もたしかにあります。ですが、それが全体として効果的なのかといえば、現在の国内での人材不足や業界環境の変化などを踏まえると、なかなか難しいといわざるを得ません。実際のところは、さまざまな影響に苦しみながら、解決策を模索しているような状況です。

 そうしたなか、ものづくりにおけるクオリティーやイノベーションの問題がさらに加速しており、世界的には「ソフト」の充実がより重要になってきています。それは「オリジナリティー」であったり、「個性」や「デザイン」「IoT」「AI」であったりするのですが、さらに新しい概念―たとえば「IoE」(Internet of Everything)のようなものも求められてきています。

 しかし残念ながら、日本ではそうした新しい概念を生み出すことを不得手としており、あまり活発とはいえません。相変わらず、昔ながらの古い概念に囚われ、オリジナリティーや生産性が低い状態にあります。そうしたガラパゴス化した日本の特殊性を、良い意味で我々なりに突き詰めて発展させ、建築や都市に落とし込んでいくことはできないか、ということを最近考え始めています。「生産現場の未来」や「生活の進化に対応する都市の在り方」など、日本の今後が問われている状態だといえるでしょう。

アフターコロナ対応の超高層ビルのアイデア

 たとえば、「コンパクトシティ」という概念があります。現在、国が主導するかたちで都市のコンパクト化を進めています。それは大規模開発の流れで、駅前などの中心市街地に多機能な超高層ビルなどを建てて都市の機能や人口を中心部に集約することで、これまでの郊外化を抑制すると同時に、中心市街地を活性化して賑わいを創出し、都市全体のコンパクト化につなげるというものです。国交省の立地適正化計画などもあり、地方都市でも同じ発想で中心市街地に機能や人を集約していこうという傾向にありますが、今までと同じ方法では、まさに「密閉」「密集」「密接」の“三密”の状態をつくり出してしまうといえるでしょう。

デザイン イメージ 今回のコロナによって、リモートや非密集という概念が生まれ、そして浸透してきていて、世界の建築家の間では、「アフターコロナに対応できる新たな超高層ビルのアイデアはないか」といった議論がなされています。商業施設やオフィス、駅、集合住宅、劇場、病院など、都市やまちづくりにおける建築の在り方がこれから変わってくる可能性があり、それは全世界的な潮流になりつつあります。もちろん、コロナ終息後には、ある程度は一定の揺り戻しによって「元のかたちへの戻り」も出てくると思われますが、「完全に戻ることはあり得ないだろう」という見解がほとんどです。

 そうしたなか、たとえばエレベーター1つとっても、革新的なものが生まれようとしています。それは、建物内において人が集中しやすい構造の今のエレベーターを、分散させて人の移動を少人数化できないかという試みです。リニアモーターカーなどで用いられるのと似た磁気浮上技術によって電線ケーブルや昇降路を使用せず、縦方向だけでなく横方向にも移動可能なエレベーターが、らせん状に多数配置されるような構造の研究が始まっています。これは、建物内において場所のかさばるエレベーターシャフトが変化することで、超高層ビル内で使用可能なフロア面積が、最大40%も拡張できるようになるともいわれています。そのため、不動産開発側からの注目も集めているようです。

 ほかにもアフターコロナに対応した建築の在り方として、素朴に「自然光」や「風」の取り込みといったものから、建物内の移動を考えた「適切なスケール」「規模」というものがあってもいい、というような議論が始まっています。

バーチャルとリアル これからの建築・都市の意味

 さて、世界の建築家の間では、「現在の方法ではない、今後の建物・都市の概念を探るべきである」という議論が沸き起こっていて、それが直近の課題となってきているように思います。

 たとえば、コロナ禍でイベントや祝祭性の強いセレモニーなどが中止されている状況から、そのリモート化に対する取り組みが始まっています。それは、「リアルな都市でイベントを行わずとも、バーチャルな世界で人々に演出が届けば、ほとんどの人はそれで補えるのではないか」という考えであって、「リアルな都市のイベント性とはどのようなものか」という見直しが必要になってきているともいえます。言い換えれば、「リモートではなく、都市に実際に人々が集まることの意味とは何か」ということです。

 ほかにも、「多様化する仕事場」や「働き方改革という国の方針」「コミュニケーションの在り方」などのさまざまな視点や課題から、都市や建築は、その進むべき方向性が現実に問われてきています。しかも、こうした諸問題の解決策は「どれが正解」ということではなく、多様性が拡大していて「何でもあり」になってきているのが実態です。ただ、「多様な選択肢がある」という意味では、一気に動きが進んできているともいえます。

 コロナをきっかけとして、これまでの建築や都市の在り方が新たな段階に変わっていかざるを得ないでしょうし、「建築とは何か」「都市とは何か」を改めて問い直していく必要があるのではないでしょうか。

(了)

【坂田 憲治】


<プロフィール>
有馬 裕之
(ありま・ひろゆき)
1956年、鹿児島県生まれ。80年に(株)竹中工務店入社。90年「有馬裕之+Urban Fourth」設立。さまざまなコンペに入賞し、イギリスでar+d賞、アメリカでrecord house award、日本で吉岡賞など、国内外での受賞暦多数。作品群は、都市計画から建築、インテリア、グラフィックデザイン、プロダクトデザインなど多岐にわたり、日本・海外を含めたトータルプロデュースプログラムを展開している。

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