2022年01月25日( 火 )
by データ・マックス

『競争と情報』~未来予測力と危機管理力の強化~(3)

日本ビジネスインテリジェンス協会会長
日本大学大学院グローバル・ビジネス研究科講師
東京経済大学経営学部・大学院経営学研究科元教授

中川 十郎 氏

リスク管理と情報活用

リスク管理 イメージ 冷戦後、かつての資本主義、共産主義圏の壁が崩壊し世界はボーダレスとなった。その結果、企業はグローバル化した市場への進出を積極化させ始めた。国際競争が激化するなか、新興市場やBRICs(ブラジル・ロシア・インド・中国)など巨大新興市場へ企業活動の範囲が広がった。さらにベンチャー、資源開発プロジェクト、新金融商品ビジネスなど取引金額も高額となりリスクが増大しつつある。

 1997年のアジア金融危機、2008年からの世界金融、経済危機などリスク管理の重要性はますます高まっている。近年の国家・地域間のFTA(自由貿易協定)の急増、テロの脅威、感染症、貿易、投資、企業提携、M&A(企業の吸収・合併)など、世界の政治・経済環境の激変下でリスクマネージメントは企業の枢要な経営戦略の1つとなりつつある。

 リスク管理には情報の収集、分析、活用が必須である。この観点からリスク管理のための情報活用の重要性について論じる。

 日本企業のリスク管理は遅れており、今後のグローバル・ビジネス展開においてはリスク管理を重視する国際経営を行うことが必要である。

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 過去、日本企業は70年代の「ブラジルの奇跡」のブームで、500社以上がブラジルに殺到した。しかし、やがてブラジル経済の低迷で、ほとんどの企業が赤字経営となり、退却するなど苦い経験をした。その後、85年のプラザ合意以降の円高で、日本企業は今度は米国への投資になだれ込んだ。ここでも、ほどなく米国経済の不況が原因で収益が悪化。せっかく取得した不動産や買収企業の転売などで、退却をやむなくされた企業が数多く見られた。

 その後、日本企業は円高を活用し、発展が予想されるアジアへ転進。ASEAN諸国、とくにタイへの投資を急増させた。しかし、97年のタイ・バーツ危機では80%近くの進出企業が大きな影響を受け、苦境に陥った。中国進出ブームの陰でも経営が赤字の企業もあり、ほかの東南アジア、ベトナム、インドなどに拠点を移す企業が出てきた。

 日本企業はこのように相対的にリスクに対する認識が甘く、他社に追随して進出するなど、独自の確固たる経営戦略がない。十分な事前調査、情報収集、分析もなく進出して苦杯をなめているケースも多々ある。

 リスク(危険)管理のみでなく、クライシス(危機)管理、非常危険(カントリーリスク)、派遣社員の安全管理、新型インフルエンザやエピデミック対策など多角的、総合的な危険・危機管理に留意すべきである。リスク情報を収集、分析し、増大するリスクの分析とリスク管理をしっかり行うことが肝心である。そのためにはリスクと危機を事前に予知し、リスクを未然に防止することを第一義とすべきである。

 リスク管理には正確な情報収集が最大の武器になる。日ごろから意識して、リスク関連の正確な情報を収集、評価、分析し、的確な判断を下す訓練をしておくことが大切である。

 日本企業の経営の急速な国際化にともない生み出される危険・危機が巨大化している現状下、企業のリスク管理体制の整備、経営トップの危険・危機管理に対する重要性の認識、さらに企業の重要情報、新技術、知的所有権の機密保持についても、リスク管理の一環として管理意識を強化する必要がある。

(つづく)


<プロフィール>
中川 十郎(なかがわ・ じゅうろう)

 東京外国語大学イタリア学科国際関係専修課程卒後、ニチメン(現・双日)入社。海外8カ国に20年駐在。業務本部米州部長補佐、開発企画担当部長、米国ニチメン・ニューヨーク本社開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部・大学院教授などを経て、現在、名古屋市立大学特任教授、大連外国語大学客員教授。日本ビジネスインテリジェンス協会理事長、国際アジア共同体学会顧問、中国競争情報協会国際顧問など。著書・訳書『CIA流戦略情報読本』(ダイヤモンド社)、『成功企業のIT戦略』(日経BP)、『知識情報戦略』(税務経理協会)、『国際経営戦略』(同文館)など多数。

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