2024年04月19日( 金 )

九州で7年ぶり出店 販管費上昇にどう対処(前)

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大黒天物産(株)

 大黒天物産が全国展開を進めている。九州では2018年12月にマミーズを買収したのに続き来年5月、福岡県久留米市に7年ぶりに出店する。店舗拡大が遅れたのは関西・中部を優先してきたためだが、両地方での出店が一段落後は九州進出を加速すると予想される。上昇傾向にある販管費率を抑制しコスト競争力を強化することが安売り激戦地・九州で勝ち抜くカギとなる。

九州ではいずれドミナント化へ(2号店の若松店)
九州ではいずれドミナント化へ(2号店の若松店)

ゴーストタウンの水巻店

 福岡県水巻町の大型商業施設「グランモール水巻」。テナントが出ていってしまい、大黒天の「ラ・ムー」が唯一営業している。11月初旬の昼前、広い店内は客もまばらで2台開いているレジも手持ち無沙汰な様子だった。目と鼻の先にあるトライアルとルミエールに比べ客数の差は歴然としている。

 価格は激安だ。弁当は198円(税込、以下同)から、プライベートブランドの「D-PRICE」食パン68円、同牛乳2L167円。メーカーブランドでも山崎製パン「ロイヤルブレッド」149円、「雪印ネオソフト」300g198円、「明治ブルガリアヨーグルト」138円など、トライアルとルミエールに比べ遜色ない。

 大黒天の商品は大量陳列しているが、扱い品目数は少ない。同規模の食品スーパーが1万品目を超えるのに比べ5割以下の約4,500品目。「雪印バター」は置いてなく、「カゴメとんかつソース」と「ネスカフェ ゴールドブレンド」は品切れなのか、大型サイズしかなかった。練り物や漬物、こんにゃくなどの和日配は地元・岡山県と広島県のメーカーのものが多く、九州産は少ない。

 商品を絞っているのは1品目あたりの発注量を増やすことで仕入原価を抑えるためだ。1品の売価は安くても、商品の選択範囲は限られる。九州に仕入れ部門を置いていないため、コメや日配品、調味料といった地場商材は本社のある岡山県産のものが多くなる。DS(ディスカウントストア)2社と客数で圧倒的な開きがあるのは品ぞろえが客のニーズを捉えていないせいだろう。

 それにしても、ゴーストタウンと化したモールで1社だけ営業とはいかにも異様。デベロッパーは施設にIT企業などを誘致する計画だが、テナント撤退跡は閉鎖したままで進んでいない。大黒天がどう見ても賑わっているとはいえない店舗に固執するのは、数少ない九州の拠点を失いたくないためだろう。

マミーズ、一体化進まず

 久留米市御井町に出す新店は同市では2号店で、九州では15年11月の小倉沼店以来。間隔が大幅に開いたのは、関西・中部を優先してきたためだ。前期の出店6店のうち、4店が関西・中部だった。

 旧マミーズから継承した22店の本体との一体化も進んでいない。マミーズは老朽小型店が多く、福岡県魚市場が経営していた15年間、1度も黒字を出したことはなかった。そんなオンボロ会社を買ったのは、破格の好条件だったのと九州で一挙に店舗を拡張できるためだ。

 買収後、変わったのは看板をかけ替えたのと「D-PRICE」を導入した程度で、改装や増床は手付かずのまま。仕入れも従来通りで、売価は通常の食品スーパーと変わらない。大黒天に九州での物流機能がなく、問屋に物流を依存しているため仕入れ原価を下げることができない。

 一体化が遅れているのは、マミーズに送り込める、マネジメントのできる幹部要員が不足していることもある。本社専務との兼任で社長に就いていた菊池和裕氏が昨年大黒天を退社し、現在大賀昭司社長(65)が会長を兼務し社長は不在の状態。九州の子会社まで手が回らないというのが実情だ。

人材不足が根本に

 大賀氏は岡山県の食品問屋・藤徳物産を脱サラして大黒天を創業、一代で西日本有数のDSを築き上場をはたした。問屋ビジネスを知るだけに、1品まで相見積もりで問屋を競わせ納品価格を下げさせる。常に小耳に鉛筆を挟み気づいたことをメモ、数字に強いことで知られる。半面で創業オーナーに多いワンマンでもあるようだ。人材不足を補強するため、かつてダイエー出身で関東のDS、ジェーソンの社長を務めた人物を副社長に迎え入れたが、数年で退社した。菊池氏も途中入社だった。スカウトした幹部と意見の対立があったことは容易に想像できる。こうしたワンマン経営の下では生え抜きの人材が育ちにくい。

今期は減益

 22年5月期の業績は、前期出した新店6店が戦列に加わるものの、巣ごもり消費の反動で既存店が苦戦、連結売上高は前期比0.5%増とほぼ横ばいにとどまる見通しだ。チラシの再開などで販管費が増え、経常利益は9.4%減の80億円、当期純利益は13.0%減の48億円と減益になる。減益はマミーズなどのM&A(合併・買収)で販管費が急増し大幅に落ち込んだ19年5月期以来。

 第1四半期(6~8月)は前年同期比で3.2%減収、24.1%の経常減益で通過した。販管費を横ばいに抑えたが、競争激化で粗利益率が悪化したのが響いた。

【グラフ1】大黒天物産の業績推移(連結)

(つづく)

【宗像 三郎】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:大賀 昭司
所在地:岡山県倉敷市堀南704-5
設 立:1986年6月
資本金:16億6,100万円
売上高:(21/5連結)2,215億5,100万円

(後)

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