2024年04月25日( 木 )

九州で7年ぶり出店 販管費上昇にどう対処(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
大黒天物産(株)

 大黒天物産が全国展開を進めている。九州では2018年12月にマミーズを買収したのに続き来年5月、福岡県久留米市に7年ぶりに出店する。店舗拡大が遅れたのは関西・中部を優先してきたためだが、両地方での出店が一段落後は九州進出を加速すると予想される。上昇傾向にある販管費率を抑制しコスト競争力を強化することが安売り激戦地・九州で勝ち抜くカギとなる。

販管費率が上昇

販管費率が上昇一途
販管費率が上昇一途

 大黒天の直面する課題の1つは上昇一途の販管費率をどう抑制するかだ。10年前の11年には17.37%だったのが、その後はほぼ一貫して上昇し、18年は20.19%と20%を突破。前期は巣ごもり効果で20.05%に低下したが、今期は再び上昇に転じることが予想される。

 販管費増の主因は人件費増。売上高に占める比率は10年前の7.43%から前期は9.12%と1.69ポイント、5年前比では8.21%から0.91ポイント上昇した。社歴を重ねるとともに福利厚生の充実や従業員の高齢化などで人件費が増加するのは急成長企業の宿命でもある。同社の場合も、8年前からそれまでなかった退職給付を少額ながら費用に計上し始めた。

 DSにとって販管費率の上昇は競争力の低下を意味する。九州企業ではダイレックス12.52%、アレス15.55%、ロッキー18.10%、三角商事は10%と言われ、軒並み20%を切り大黒天より低い。ミスターマックスHDが21.74%とわずかに上回るだけ。トライアルカンパニーは販管費率の上昇に危機感を深め、6年前コスト削減へ間接部門まで含めて分社化する大胆な構造改革を断行。小売子会社トライアルオペレーションズは16.52%になった。

【グラフ2】粗利益率と販管費率推移

粗利益率は年々改善

 経常利益率は15年まで4%台だったが、販管費率の上昇で以後は3%台で推移、19年は1.59%に低下した。それでも同期と20年を除くと流通企業では高水準の3%台を叩き出してきたのは粗利益率の改善による。前期は23.93%で10年前比で1.39ポイント、5年前比では0.79ポイント上昇した。販管費率の上昇を値入れ率の改善やSPA(製造小売業)化でカバーしてきたことがうかがえる。

 製造子会社は15年5月買収した真鯛などの養殖事業の「オリーブ水産」(香川県坂出市)やキャベツなどの野菜農場、酪農、インスタント麺など6社。生産から販売まで一貫して手がけることでコストを合理化し低価格で提供するのが狙いだ。委託生産の「D-PRICE」や惣菜を含めると自社商品の比率は約3割。

PPIHに次ぐ販管費率

【表】域外DS4社の比較

 【表】は九州に進出したDS4社を比較したもの。販管費率はドンキホーテを展開するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)の24.35%より低いが、フランチャイズチェーン本部の神戸物産の6.26%と万惣の14.92%より高い。

 PPIHの収益構造はDSとはいえない。物流は外部委託で、トライアルのような低コストのシステムをもたない。販管費率が高いのは、九州など地域ごとに商品担当者を置き、地方仕入れを行っていることも一因。食品などの生活必需品の低価格販売が可能なのは、売上の6割を占めるレジャー用品や時計宝飾、衣料など非食品の高粗利によるものだ。粗利益率は29.11%で、総合スーパーと変わらない。

 「業務スーパー」を展開する神戸物産は客の9割が個人客で、実態はDSと変わらない。SPAを志向している点では大黒天と共通する。製造子会社だけで23社を擁し規模は大黒天をしのぐ。低価格の源泉は自社または海外を含めた委託工場で製造したPBで、売上の3割を占める。メーカーブランドを低価格で販売する代わりにPBで稼ぐ。

 ただ、大黒天、神戸物産ともPB拡大には限界があるとみられる。日本の消費者はメーカーブランド志向が強く、大手食品メーカーのシェアは揺ぎそうにないからだ。

 両社は売上成長力ではほぼ互角だが、利益成長力は神戸物産に軍配が上がる。神戸物産は経費率が低く、FC店が増えるほど経費率が低下する構造のためだ。

ドミナント化が不可欠

 18年11月広島県から進出し飯塚市に九州1号店を出した万惣はその後、1年足らずの間に立て続けに4店を開いた。徹底したコスト削減と効率化がビジネスモデルだ。店舗の作業を減らすため扱い品目を絞り、飲料はケースごとに陳列、生鮮の店内加工はゼロですべてアウトパックにし、店舗を最少人数で運営する。原則として特売チラシは打たない。

 販管費率と粗利益率(15.63%)は4社中2番目に低い。経常利益率も1.28%と4社では最低だが、「少ない売上でも成り立つスーパー」(同社)を目指す。

 出店は19年11月の宇美店(福岡県宇美町)を最後に止まっている。当初は福岡県中間市に開設したプロセスセンターの操業を安定化させるため、早急に10店にもっていく計画だった。コロナ禍にぶつかったこともあるが、まず既存5店を軌道に乗せることを迫られているとみられる。

 大黒天が域外勢を交え安売り競争の激しい九州で勝ち残るには、点にとどまっている店舗を拡大しドミナントを構築することが欠かせない。

(了)

【宗像 三郎】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:大賀 昭司
所在地:岡山県倉敷市堀南704-5
設 立:1986年6月
資本金:16億6,100万円
売上高:(21/5連結)2,215億5,100万円

(前)

関連記事