2024年03月29日( 金 )

商都・福岡には名建築が少ない?「かっこいいビル」を考察(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

主要な建築群像エリア(つづき)

3)クライマクテリック都市を目指せ「アイランドシティ」

 城郭を築く石積は、大きな石だけでは構築できない。隙間に間石(あいいし)という小石を詰めて、大きな石の重力を均等に分散させる。積み石のかたちや性質を読み、その力を伝播させていくことで、初めて全体の均衡が保たれる。もちろん小さな石だけでも駄目で、骨太となる骨格があってこそ。小さな石だけでは、砂上の楼閣となり崩れてしまうだろう。

 1994年から開発が始まり、博多湾を埋め立てて建設された人工島・アイランドシティは、福岡市が先導する最先端モデル都市だ。現在もタワーマンションの建設ラッシュに沸いている。まち(島)のなかには学校や病院、ホテルや商業施設、大きな都市公園等、住空間として生活に必要なものはほぼそろっている。そのまちのなかを歩いていると、気づくことがある。今まさに熟成されていくべき過渡期だとは思うが、まちにはまだまだ血が通っていないようだ。

(左から)アイランドタワースカイクラブ/アイタワー/センターマークスタワー/照葉ザ・タワー
(左から)アイランドタワースカイクラブ/アイタワー/センターマークスタワー/照葉ザ・タワー

 ところで「クライマクテリック」とは、追熟(ついじゅく)のことで収穫後、日が経つことで熟成されていくことをいう。「果物は置いておけば甘くなる」という話があるが、それはキウイ・リンゴ・バナナのような追熟するクライマクテリック型と、日本梨やブドウのような追熟しない非クライマクテリック型とに分類される。アイランドシティは今後、このクライマクテリックを太らせていくことが課題だ。現在はまだ個人の顔が見えにくく、まちのなかで人間の気配があまり感じられない。人情味ある情緒を感じ、懐かしさに耽るような郷愁をつくり、それをまたつないでいく空間的余白も大切だ。

 都市開発のなかで、間石の考え方は取り入れられているだろうか。都市は構想上、大きな潮流からつくられる。道路、街区、角地、公園、公的施設、商業、宅地…。物理的な大規模建築、大きな空地、マンション、複合施設等、大手資本による流通業の運営母体が、プロジェクト上流で場所取り合戦を始める。中流から下流段階で、個人店のような人と人をつなぐような役割の媒体が物理的に入っていけるような器が必要だ。大きな石だけで敷き詰められてきている大味な空間構成、この息苦しさみたいなものを今後緩和していけるだろうか。熟成されていくクライマクテリックな都市になるには、仕掛けが自然と回り出す仕組みが重要だ。

(左から)アイランドシティ-オーシャン&フォレストタワーレジデンス-WEST/EAST/センターマークスゲート
(左から)アイランドシティ-オーシャン&フォレストタワーレジデンス-WEST/EAST/センターマークスゲート

アイランドシティの代表的な超高層ビル群
アイランドタワースカイクラブ(地上42階、最高145.3m、分譲タワーマンション。08年竣工)/アイタワー(地上45階、最高 149.47m、超高層分譲マンション。16年竣工)/センターマークスタワー(地上46階、最高152m、総戸数283戸の分譲タワーマンション。19年竣工)/照葉ザ・タワー(地上44階、最高約150m、分譲284戸タワーマンション、2022年1月予定)/アイランドシティ オーシャン&フォレストタワーレジデンス(地上48階、最高161m、全620戸ツインタワーマンション、竣工WEST: 22年11月予定、EAST: 23年2月末予定)/センターマークスゲート(西日本鉄道(株)の提案するレジデンス街区、下階層テナント、複合施設)


松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡 秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、その後独立。現在は「教育」「デザイン」「ビジネス」をメインテーマに、福岡市で活動中。

月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?

福岡のまちに関すること、再開発に関すること、建設・不動産業界に関することなどをテーマにオリジナル記事を執筆いただける方を募集しております。

記事の内容は、インタビュー、エリア紹介、業界の課題、統計情報の分析などです。詳しくは掲載実績をご参照ください。

企画から取材、写真撮影、執筆までできる方を募集しております。また、こちらから内容をオーダーすることもございます。報酬は1記事1万円程度から。現在、業界に身を置いている方や趣味で再開発に興味がある方なども大歓迎です。

ご応募いただける場合は、こちらまで。その際、あらかじめ執筆した記事を添付いただけるとスムーズです。不明点ございましたらお気軽にお問い合わせください。(返信にお時間いただく可能性がございます)

関連記事