2024年04月25日( 木 )

商都・福岡には名建築が少ない?「かっこいいビル」を考察(後)

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主要な建築群像エリア

1)明治通りド真ん中の森「アクロス福岡」

 1995年、福岡県庁舎があった天神中央公園の横に、アクロス福岡は竣工した。89年にコンペが開催されて最終選考に残ったのが、都市に緑のオープンスペースを提案したエミリオ・アンバース×日本設計×竹中工務店のチームだった。「アクロス山」という自然の山が都市の中心部に置かれることで、天神中央公園の景観を損ねずに増幅させるデザインだった。ステップガーデンを登る山中はまさに森に囲まれた山路で、地上60mの山頂から下界を臨むと、末広がりに伸びた森林と公園の森とが連続して連なり、一体化したグリーンベルトになっている。内部空間も面白い。1階アトリウムからはステップガーデンの背中が覗ける。木々から抜けてきた木漏れ日が、階段状になったガラスの表層を透き通って壁を伝い、地下階まで光を落とす。エントランスから続く吹抜けの大空間は日中、運が良ければ森に包まれた神秘的な光の空間を体験できる。

アクロス福岡 外観
アクロス福岡 外観

 日本の建築はとかくスクラップ・アンド・ビルドの思考が色濃く、ヨーロッパ建築のように古い建物に手を加えていくことで価値を高めていくマネジメント手法は、まだまだ少数だ。建築は竣工時が最も美しく、ランドスケープは植えたばかりの小さな木があるだけで貧弱。通常、竣工がスタート地点の1つのはずなのに、建築はそこで業務が終わり、ランドスケープはそこからスタートするといった逆転現象になっているのだ。

アクロス福岡 内観
アクロス福岡 内観

 そんななかで、アクロス福岡は建築されると同時に木々とビルがともに成長をはじめ、有機的な存在として異彩を放っている。成長した木々は茂り、育った林をより豊かな森へ実らせるために、今もなお土壌としての器の役目をはたし続けている。この有機体は、明治通りを代表する建築群であり、都心の森としてこれからも多くの人々に親しまれていくのだろう。

2)低層の群像「屋台」

 中洲や天神、長浜の夜は、何と言っても屋台だ。1960年代には400軒以上あった屋台も、現在では100軒程度に減少してしまったが、今でも福岡市の夜の魅力の1つであることに違いはない。

(提供:福岡市)中洲・那珂川沿いに並ぶ屋台2008
(提供:福岡市)中洲・那珂川沿いに並ぶ屋台2008

 香港、バンコクなどのアジアを旅すると、いたるところで屋台文化と出会うことができるが、日本では珍しくなってしまった。戦後まもなくマッカーサーの号令によって、「不衛生だから」という理由で厚生省や自治体を通じて屋台の取り締まりが強化されたためだ。では、なぜ博多の屋台は生き残れたのか――。それは、「不衛生という理由なら、なぜ風俗営業には許可を出し、屋台だけを潰すのか!」――と、当時の県議会議員・河田琢郎氏が、屋台廃止の反対活動を展開したからだ。その後、紆余曲折を経て博多の屋台は許可制となり、現在まで存続している。

 「移動建築」の最たる例の屋台だが、法律上は「移動飲食業」。どこにでも屋台を引いて行って営業することはできない。あらかじめ決められた場所で営業しなければならず、大きさも3m×2.5mと規定されている。そして屋台の店内は「のれん」のなかだけ。これは法律で決まっているので、いくら混んでいるからといって、店内のものを「のれん」の外で食べることはNGだ。専用の電源をもち、水道は近くのビルなどと契約していたりする。ガスは当然プロパンガスを持ち運ぶ。

 屋台は移動する建築である。しかし一方で、移動するということ以上に「そこにない」ことが人々の感覚に訴えてくるものがあるのではないだろうか。西洋に端を発する「建築」的なるものは、永続性や堅牢性、権威の象徴としても崇められた。移動建築は、今は存在しているが次の瞬間には消えてなくなってしまう「不在性」にこそ魅力がある。「動く」と同時に「消える」建築だ。

 高圧的な垂直ビル群の対極にある屋台は、航空法規制のために高層化が制限される反動か、水平に群れを為して発展した。ヒューマンスケールに近い消える低層群が、屋台の素性だ。狭小空間で語った酒談話、仕事の愚痴も、明日の朝にはその空間ごと消えてしまう。この刹那的な空間こそ、博多を代表する文化「水平のビル群」ということができる。


松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡 秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、その後独立。現在は「教育」「デザイン」「ビジネス」をメインテーマに、福岡市で活動中。

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