2024年04月26日( 金 )

イデオロギーではなくテクノロジーで〜経済人が啓く日本再生の処方箋(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

(株)ブロードバンドタワー
代表取締役会長兼社長CEO
藤原 洋 氏

 今年2022年は日中国交正常化50周年にあたる。この50年を振り返るに、初めこそ日本がODAなどを通じた中国の近代化の支援者であったが、バブル崩壊を機にみるみる衰退、2000年代以降は中国が豊富な労働力と巨大な市場を提供し、日本経済を支えるようになった。同時に世界は情報化社会へと急速に変化していったが、IT技術でめざましい経済成長を遂げた中国は米国のヘゲモニーを脅かすものとして敵視されるようになり、民主主義vs共産主義のような古めかしいイデオロギー対立論がまたぞろ浮上、いまや「有事」さえ取り沙汰される事態に――。「同盟国」米国と重要な貿易相手国たる中国との狭間にあって、我が国は、経済を再生し国際的プレゼンスを高めるために今後どのような道を模索すべきか。インターネット協会理事長で(株)ブロードバンドタワーCEOの藤原洋氏がデータ・マックスに語る、現実的かつ力強い日本再生論。

(聞き手:(株)データ・マックス 代表取締役 児玉 直)

デジタル化が解消する3つの課題

(株)ブロードバンドタワー 代表取締役会長兼社長CEO 藤原 洋 氏
(株)ブロードバンドタワー
代表取締役会長兼社長CEO
藤原 洋 氏

    とまあ、このような課題もありますが、インターネットを手段とするデジタル化で解決できるものもあるのです。まず、少子高齢化にともなう労働人口の減少。これはなにも、人口が減っているから子どもをつくりましょうという話ではありません。労働力の不足はデジタルテクノロジーで補えます。その仕組みをどうつくるかということこそ、議論とアクションが必要なのです。

 次に、首都圏一極集中。日本の特殊事情ですね。定量的には人口の3分の1、経済の実に半分が首都圏に集中しているわけですが、これを解消し地方経済を活性化させるのに、インターネットを活用したテレワークは非常に有効です。職種にもよりますが、たとえばプログラムの開発など、ほとんどリモートワークでできる仕事はたくさんあります。何も東京に住んでオフィスに出勤する必要はなく、土地も安くて住み心地のいい、自分にとって最適な場所で仕事ができるのですから、労働生産性を上げるためにもこれを活用しない手はありません。

 そして、「眠る中小企業」。日本では中小企業が全企業数の99.7%を占めていますが、大企業依存の会社が多く、そのポテンシャルを十分に発揮できていないのが現状です。各々独自の技術で自立できるよう、国策として手を打つべきなのですが、これについてはたとえばドイツが参考になります。ドイツには「フラウンホーファー研究機構」というものがありまして、全ドイツに69カ所でしたか、研究所が置かれています。企業間の委託研究を担う政府機関で、政府・大企業・中小企業が3分の1ずつ研究費を出し合い、研究開発を行うんですね。こうすることで、中小企業の自立性とポテンシャルを高めているわけです。日本にもこれに相当する機関として、筑波に経済産業省の「産業技術総合研究所」がありますが、ドイツのように全国に展開するだけのリソースは我が国にはありません。そこで私は、全国に86大学ある国立大学を活用することを提唱しています。各地方の中小企業と共同研究を行い、その自主的な研究開発を後押しする仕組みを、これまたデジタル技術を用いて構築することができるのですから。

データは誰のものか、どう活用するかを明確に

 OECDの統計によると、20年の日本人の時間あたりの労働生産性は49.5ドル。OECD加盟38カ国のうち23位で、G7では最下位です。これを改善するためには、今しがた例示したようにデジタル化が有効なのですが、国連のランキングで日本はどんどん順位を下げて20年は14位に。では、なぜ日本でデジタル化が進まないのか。1つには、マイナンバーカードに対する人々の反応からもわかる通り、個人情報が収集されることへの抵抗感といいますか、自分の関知しないところで誰かの手に渡り、なにか悪いこと―たとえば監視など―に使われるのではないかという懸念があるからと思われます。

 この問題も、やはり各国の価値観の相違という観点から考える必要があるでしょう。すなわち、「データは誰のものか」ということです。大雑把に言いますと、まずアメリカでは、データはデータを集めた企業のもの。いわゆるGAFAがそうですね。次に、ヨーロッパではEUがGDPR(一般データ保護規則)を制定していることからもわかります通り、データは個人のものであるというのが大前提です。ただし、個人が認めた場合に、そのデータを匿名化するなどして何かに活用できる、と。そして中国では、データは政府のものです。なぜなら、中国共産党という指導層が人民のためにデータを使うということになっているからですね。日本はこの3つの類型のなかではヨーロッパに近いと私はみていますが、「データは誰のものか」をはっきりさせるところから始めて、その流通・活用の仕組みを構築することが急務なのではないでしょうか。

 いずれにせよ、移民政策にしても女性や若者の活用にしても、日本人は因習にとらわれず、もっと合理的な判断を働かせてもよいのではないかと思います。とくに移民について、「日本人の雇用を守るため」と称し、少数を日本人労働者が嫌がる仕事に従事させるために入れていますが、たとえばドイツのように、イデオロギーに関係なく優秀な外国人人材を多く集め、国内の重要なポストに就かせるという道もあり得るでしょう。経済交流の推進と国内のデジタル化とともに、日本経済が活力を取り戻すための有効な方策となるはずです。

(了)

【文・構成:黒川 晶】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:藤原 洋
所在地:東京都千代田区内幸町2-1-6
設 立:2000年2月
資本金:33億4,500万円
売上高:(20/12連結)160億7,700万円
URL:https://www.bbtower.co.jp


<プロフィール>
藤原 洋(ふじわら・ひろし)
 1954年生まれ、福岡県出身。77年京都大学理学部卒業。東京大学工学博士(電子情報工学)。日本アイ・ビー・エム(株)、(株)日立エンジニアリング、(株)アスキーを経て、96年12月、(株)インターネット総合研究所を設立。同社代表取締役所長に就任、2012年4月、(株)ブロードバンドタワー代表取締役会長兼社長CEOに就任。現在、(一財)インターネット協会理事長、慶應義塾大学環境情報学部特別招聘教授、SBI大学院大学副学長を兼務。11年4月(独)宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学評議会評議員、13年12月総務省ICT新事業創出推進会議構成員、14年1月同省電波政策ビジョン懇談会構成員、16年10月同省新世代モバイル通信システム委員会構成員、18年12月から同省デジタル変革時代のグローバルICT戦略懇談会構成員に就任。
【主な著書】1998年『ネットワークの覇者』日刊工業新聞社、2009年『科学技術と企業家の精神』岩波書店、10年『第4の産業革命』朝日新聞出版、14年『デジタル情報革命の潮流のなかで~インターネット社会実現へ向けての60年自分史~』アスペクト、16年『日本はなぜ負けるのか~インターネットがつくり出す21世紀の経済力学~』インプレスR&D、2018年『全産業「デジタル化」時代の日本創生戦略』PHP研究所、『数学力で国力が決まる』日本評論社 ほか多数。

(中)

関連記事