2024年05月19日( 日 )

最先端を走る企業、今の時代に欠かせない「挑戦」の秘訣(中)

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(株)APIコンサルタンツ 松本 洋 氏

 「価値観の転換期」ともいわれる今の時代。次世代の「常識」を生み出すのは、先の一手を見据えた大きな挑戦である。価格破壊により「光ブロードバンド」を普及させてIT革命の夜明けを先導し、企業マネジメントのコンサルタントやM&Aを手がけてきた(株)APIコンサルタンツ代表取締役・松本洋氏に、これまでの挑戦の軌跡と、これからの経営でどのような挑戦が必要かを聞いた。
(聞き手:(株)データ・マックス代表取締役・児玉直)

最先端技術で通信革命を起こす

 ──IT革命の時代には、最先端技術の「光ブロードバンド」を日本でいち早く取り入れ、通信革命の先駆けとなりましたね。

 松本洋氏 日本では2000年ごろ、「光ブロードバンド」による通信革命が起きました。インターネットが普及し、情報の流れが爆発的に加速したのです。このきっかけの1つは、私が投資会社の米国・フィデリティ投信(株)にスカウトされ、同社から400億円の出資を得てKVHテレコム(株)(現・Coltテクノロジーサービス(株))を1999年に創業したことでした。

光ファイバー イメージ    通信最大手のNTTは当時、数十兆円かけて整備したデータ通信速度64kbpsの銅線の市内通信ケーブルの原価償却が終わっていないため、このケーブルを使い続ける計画を立てていました。しかし、日本の市内通信は銅線を使っているため、欧米の約4~5倍もコストがかかっていることが、インターネット市場の拡大に向けた大きなハードルとなっていました。

 一方、データ通信速度1.5Mbpsの「光ファイバー」を使えば、低価格で高速通信が実現できます。銅線の通信ケーブルを一車線とすると、光ファイバーは何万車線もある高速道路のように通信速度が速いのです。そのため、新しいインフラを整備することで、日本でも巨大なインターネット市場が誕生すると考えて約200億円を投資し、NTTの10分の1のコストで東京と大阪に130kmの光ファイバー網を整備しました。

 光ファイバーの敷設事業を開始した当時、KVHテレコムは社員30人の体制でしたが、NTTからの転籍などで1年間に250人を新たに採用して光ブロードバンドの整備を実現し、約30億円まで売上を伸ばしました(20年12月期の売上は291億円)。IT革命の時代の波に乗り、約3,000カ所のビルを光ファイバーでつないだことが、市場に競争原理を持ち込んで通信の価格を下げる「通信革命」の発端となりました。

 NTTはこの事例から影響を受けて、光ブロードバンドを手がけるようになったと考えています。また、従来の電話線を用いる高速データ通信「ADSL」事業を当時手がけていたソフトバンク(株)代表取締役社長・孫正義氏(現・ソフトバンクグループ(株)代表取締役会長兼社長)、大蔵政務次官・林芳正氏(現・外務大臣)と私の3人がビジネス情報誌の誌面で座談会を行い、光通信革命が起きるという予想を話したところ、孫氏がこの発言に着目して光ブロードバンドに関心をもち、すべての事業を売却して、通信事業に全精力をかけることになりました。

(株)APIコンサルタンツ代表取締役・松本洋氏
(株)APIコンサルタンツ
代表取締役・松本洋氏

    そのころはIT雑誌の発行、ADSL事業、「コムデックス」というテクノロジーの見本市の事業が中心でした。その後、ソフトバンクがボーダフォン(株)と日本テレコム(株)を買収し、光ブロードバンド事業に参入したことは同社が大きく発展する要因になったと言われています。

 その後、電子商取引(Eコマース)が日本でも普及すると考え、工場や研究所が間接資材(MRO)を購入できる電子商取引市場を日本でも立ち上げようとしていた、プライベートエクイティ(PE)ファンドであったリップルウッドからスカウトされ、1,000万円の出資を受け、三菱商事(株)、オリックス(株)、丸紅(株)、ニチメン(株)などから100億円の資金を調達して、(株)アルファパーチェスを02年に創業しました。この会社は、米国投資会社のリップルウッドだけでなく、世界最大手の資材流通企業グレンジャーからも出資を受けています。

 これまで工具や消火器、ビーカーなどの間接資材の流通では、メーカーから問屋、販売店を通してユーザーに届けるのが一般的でした。一方、アルファパーチェスは大手企業の研究所などの間接資材の仕入れ先を統一させ、メーカーと直取引できるEコマースをつくることで、企業の間接コストを削減し、約5年間で売上を91億円まで伸ばしました(20年12月期の売上は324億円)。

 アルファパーチェスを創業した当初は、ユーザーである製造業に当社のEコマースを使うことで調達コストが下がると提案しましたが、今までにない新しいサービスであったため、既存取引メーカーとの付き合いが深い現場の人は、コスト削減ができても新たなメーカーへの切り替えをしたがりませんでした。

 そのため、アプローチ方法を工夫したのです。製造業の現場に駐在し、顧客企業の副資材のコストを調べて、無駄な買い方や使い方をしていないかを確認して業務プロセスを合理化し、調達や購買にかかる工程のコストを下げるコンサルティングをしたことで、顧客企業の意識が変わり需要が拡大しました。

 「困っている問題を解決したい」という需要を満たすことが、企業がサービスを利用する背景にあります。この試みが通じれば、新たな分野でも試行錯誤することで市場をつくり出すことができます。また、新たな分野で挑戦するときは、事業を立ち上げたときのビジネスモデルよりも、現場経験を経て磨かれたビジネスモデルのほうが通用するということも多くの経験から得られた実感です。

(つづく)

【文・構成/石井 ゆかり】

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<COMPANY INFORMATION>
代 表:松本 洋
所在地:東京都港区白金台5-22-12
設 立:2011年8月
資本金:4,000万円
TEL:03-6277-3730
URL:https://www.api-c.co.jp


<プロフィール>
松本 洋
(まつもと ひろし)
1951年生まれ。APIコンサルタンツ(株)代表取締役社長。東京大学法学部卒業。米国コロンビア大学MBAおよび法学修士取得。日本鋼管(現・JFEスチール)の米子会社ナショナル・スチールを上席副社長(COO)として再建し、通信革命を起こしたKVHテレコムや間接材コストの削減をEコマースで手がけるアルファーパーチェスを創業、代表取締役を歴任。米・企業再建コンサルのアリックス・パートナーズ日本代表や米国の6兆円ファンドであるアドベント・インターナショナルの日本代表に就任。主な著書に『なぜ、誰もあなたの思い通りに動いてくれないのか』(ダイヤモンド社)、『他責病にサヨナラ』(エムオン・エンタテインメント)。

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