2024年04月27日( 土 )

【JR九州】「ふたつ星4047」で西九州の海めぐり 新D&Sトレイン(後)

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運輸評論家 堀内 重人 氏

 2022年秋に西九州新幹線の武雄温泉~長崎間が部分開業することを機に、JR九州は新たな観光客の誘致や在来線の活性化を目的に、「ふたつ星4047」という新たなD&S(デザイン&ストーリー)トレインを導入する。

並行在来線区間はJR九州が直営

いさぶろう・しんぺい イメージ    西九州新幹線の開業にともなう非常に重要なことは、並行在来線となる肥前山口~長崎間を第三セクター鉄道としてJR九州から経営分離するのではなく、JR九州の直営で経営することである。

 JR化以降、新幹線が開業すれば、赤字必至の並行在来線をJRから経営分離できるようになり、事実、北陸新幹線の高崎~長野間の開業を皮切りに、日本各地で並行在来線の切り離しが実施されてきた。

 JRから切り離された並行在来線は、各県や自治体などが出資するかたちで、第三セクター鉄道として主に地域輸送を担うようになるが、県境やJRとの境界駅では輸送の分断が生じるだけでなく、普通運賃や通勤・通学定期券の値上げといった弊害が目立つようになった。

 1997年に北陸新幹線として、高崎から長野までフル規格の新幹線が開業したときは、信越本線の横川~軽井沢間が廃止されるなど、ネットワークの崩壊が生じてしまった。

 九州内でも、2004年3月に九州新幹線の新八代~鹿児島中央間が暫定開業したとき、赤字必至である鹿児島本線の八代~川内間が、肥薩おれんじ鉄道という第三セクター鉄道へ経営移管された。だが、11年3月に九州新幹線が全線開業した際には、鹿児島本線の鳥栖~八代間は経営移管されず、JR九州が直営で運営している。

 たしかに鹿児島本線の鳥栖~八代間には、熊本県の県庁所在地で政令指定都市でもある熊本があるが、今回の肥前山口~長崎間には諫早くらいしかないにもかかわらず、JR九州が直営で運営する。

 JR九州の負担を少しでも減らすため、上下分離経営を採用し、インフラ部分は「公」が負担するだけでなく、電気運転を廃止して架線を撤去するという。

 列車頻度が少なくなれば、電化した状態では架線や変電所の維持管理などのコストがかさんでしまう。ましてや長崎本線の肥前山口~長崎間は有明海に面しているため、塩害による架線や架線柱の劣化などが進むため、電気運転を止めたほうがよいかもしれない。

 肥薩おれんじ鉄道の場合、貨物列車が運転されているため、電化設備は維持されているが、ローカル列車は気動車で運行している。長崎本線の場合、貨物列車は佐賀県の鍋倉までしか運転されていないため、電気運転を廃止するほうが得策かもしれない。

 西九州新幹線の開業後に、並行在来線となる肥前山口~長崎間に臨時とはいえ、特急「ふたつ星4047」が運転されることは、並行在来線の活性化にもつながる。そしてこの動きは、30年度末に北海道新幹線が札幌まで全線開通した際に、並行在来線となる函館本線の小樽(余市)~長万部間を廃止する方針を覆すことにつながる可能性もある。

 函館本線の小樽~長万部間は山線と呼ばれ、現在は特急などの優等列車は運転されておらず、ローカル列車のみが運転される区間となっている。だが、有珠山は約20年周期で大爆発を起こしており、その都度、室蘭本線が不通となり、貨物列車は函館本線の山線へ経路変更されてきた。

 並行在来線問題については旅客輸送密度にしか着目しておらず、貨物輸送が無視されていたり、函館本線の山線区間のように有事の「危機管理」の視点が抜け落ちていたりと、大きな問題を抱えている。

 新幹線の開業により、東北本線の盛岡以北が第三セクター鉄道としてJR東日本から経営分離されただけでなく、北陸本線の直江津~金沢間も県境で3つの第三セクター鉄道が誕生するかたちで、JR西日本から経営分離された。そして24年ごろには、北陸新幹線の敦賀までの延伸開業が予定されており、北陸本線の福井県内の区間もJR西日本から経営分離される予定である。

 金沢~富山間は鹿児島本線の鳥栖~八代間よりも需要が多い区間であり、JR西日本が運営したとしてもローカル列車だけでも収支均衡が図れる。そのような区間まで経営分離されてしまうことは、非常に問題だといえる。

 今回の西九州新幹線の暫定開業では、長崎本線の肥前山口~長崎間は上下分離経営が採用されるが、JR九州が直営で運営することになる。この手法は、北海道新幹線の札幌開業で廃止が決まった小樽~長万部間にも適用できそうだ。

 資金的に苦しいのであれば、国がインフラを保有するかたちで上下分離経営を採用し、JR北海道で運営が厳しければ、ウィラートレインズなどの安全で安定した輸送が可能な鉄道事業者を公募するなど、存続を模索する道もある。

(了)

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