【ラグビー】宗像サニックスが廃部　企業スポーツの今後（中）

オールブラックスのジョセフ氏招聘

　宗像サニックスは1994年にサニックスラグビー部として発足した。

　同社の創業者である宗政伸一氏はラグビー経験がなかった。ラグビー部を創設したのは、会社の象徴が欲しかったからだ。「シロアリ屋」と軽く見られていたサニックスの社会的地位を高めるのにラグビーはぴったりのスポーツだ。「One for All　All forOne」（1人はみんなのために、みんなは1人のために）はよく口にされる言葉。集団戦での突破力。宗政氏はラグビーに自らの経営観を投影したのである。

　宗政氏はローカルチームに甘んじるつもりは毛頭なく、強豪チームと渡り合えるチームを目指した。「突破力」のある宗政氏が構想したのは、プロ契約による選手の獲得だ。創部の翌年には現役オールブラックス（ニュージーランド代表）のジェイミー・ジョセフ選手とグレアム・バショップ選手というビックネームを招いた。

　「日本ラグビー発展のために尽くしたいという、あの熱量に心を動かされた」。ジョセフ氏は後年、西日本新聞（19年9月20日付）で、こう語っている。

　〈出会いは当時25歳でNZ（ニュージーランド）代表の一員だった1995年のW杯前のこと。宗政氏から誘われ、創部2年目のサニックスの大分・湯布院合宿に参加した。準優勝した同年W杯後、サニックスから正式に”ラブコール”を送られた。「ラグビーがプロ化され、NZでも混乱していた。直観で決めた」。縁もゆかりもなかった福岡を新天地に選んだ〉

　世界のトップ選手がそろったニュージーランド代表が日本でプレーすること自体が異例。母国では「なぜ、出ていくのか」と批判もあったという。当時、創部したばかりのサニックスは、地域リーグに属していた無名のチームだったのだから無理もない。

トップリーグでは異色な存在

    ジョセフ氏を口説き落とした宗政氏の眼力はたしかだ。ジョセフ氏はチームのリーダーとして非凡な才能を発揮する。W杯の日本代表のヘッドコーチに招かれ、19年のW杯で「日本旋風」を巻き起こしたことでも、その手腕をうかがい知ることができる。

　サニックスラグビー部のクラブハウスと練習場は、宗像市の「玄海グラウンド」。宗像大社の先の海辺に面し、近くには魚料理で有名な神湊がある。そこで毎日を過ごし、自分たちだけのスタイルを築き上げてきた。

　福岡県社会人リーグからスタートしたラグビー部は西日本リーグと駆け上がり、2003年に発足したジャパンラグビー「トップリーグ」に参加した。

　東芝、神戸製鋼、サントリーなどグローバル企業のチームがほとんどで、大学ラグビーで活躍した選手たちがプレーするトップリーグのなかでサニックスは異色な存在。多くは叩き上げの選手たちで、主力は海外から招いた外国人選手だ。

　サニックスは独特の展開ラグビーで上位チームをかき回し、最高成績は2009―10年シーズンの7位だった。

「グローバルアリーナ」建設

　宗政氏は2000年、宗像市の山側に、多目的宿泊スポーツ研修施設「グローバルアリーナ」を開業。宗政氏が、サニックスの株式公開時に得た創業者利益で、「青少年育成を貢献できるものを」と建設した。株式公開で得た利益だから、社会に還元すべきだという宗政氏の考えによるもので、私費をつぎ込んだという。

　2000年から続けている「サニックスワールドラグビーユーストーメント」は世界の高校生たちが目指す大会になった。このほか国際ユースサッカー大会、新体操国際大会、国際中学生柔道大会、国際ハンドボール交流大会など。宗政氏は、国や言葉の壁を超えて、若者たちが交流する姿を見るのが好きだった。

　グローバルアリーナ事業に、ジョセフ氏も関わったと前出の西日本新聞で語っている。
　社内でグローバルアリーナの建設の是非が検討され、社員でない選手でありながら、ジョセフ氏は会議に呼ばれた。

　〈そこで目にしたのは宗政氏の楕円球を通じた地域社会への貢献への情熱だ。
「（社業と直接関係のない施設の建設に対し）役員の大半は反対したが、私は賛成した。宗政さんの熱意で計画が動き出した。いいと思ったら挑戦して行動に移す。その姿勢をリスペクトした」と振り返る〉

（つづく）

【経済ジャーナリスト／秋月太郎】

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