2024年06月24日( 月 )

福岡から世界で活躍する人材を輩出 ビジネスのプレーヤーに必要なものとは?(前)

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九州大学大学院経済学研究院
産業マネジメント専攻
(九州大学ビジネス・スクール)
教授 高田 仁 氏

 九州大学大学院経済学研究院産業マネジメント専攻(以下、QBS)はビジネスパーソンの育成に従事しており、今年度、第20期生が入学した。大手企業や地場中小企業で働きながら、夜間や週末の時間を使い、学びを深める学生たち。そのなかには講座を通して学んだことを生かし、起業に至る修了生もいる。福岡のスタートアップシーンで活躍する経営者の経歴で光るQBSの文字。同校ではどのような教育を行っているのか。また、福岡のスタートアップ業界の現状をどのように捉えているのか。同校で教授を務める高田仁氏に話をうかがった。

(聞き手:(株)データ・マックス 専務取締役 緒方 克美)

市場を動かすプレーヤーを育成

 ──貴学は「専門職大学院」と位置づけています。

高田 仁 教授
高田 仁 教授

 高田仁氏(以下、高田) 従来の大学院が「研究者の育成」のための機関であるのに対し、専門職大学院は「実務者の養成」を担う機関となります。なかでも当校は経営系の専門職大学院で、「ビジネスの実務者を育成する大学院」となっています。

 当校では、育成する人材像を「経営と産業技術の知見をもって変革をリードし、アジアで新たな事業価値を創造する国際的なビジネス・プロフェッショナル」としています。「変革をリード」「新たな事業価値を創造する」という部分は2015年に追加し、価値観をアップデートしました。

 ──貴学に入学するのはどのような方でしょうか。

 高田 1学年45名、全体で90名が在籍し、そのうち9割以上が昼間に仕事をしているビジネスパーソンで、平日の夜(博多駅教室)と週末(伊都キャンパス)に登校し、ビジネスの実践的な分野を学んでいます。平均年齢は30代半ば。大学などを出て10年以上経ったキャリアをもつ人が多いです。東京本社の大手企業で勤務する方はもちろんのこと、地元大手企業や中小企業、自身で経営を行う方や自治体職員、士業・師業の方まで、学生の経歴がさまざまであることは特徴の1つといえるかもしれません。

 入学前から起業する意思のある学生がいる一方で、周りからの刺激やQBSでの授業を通して「自分にも起業ができるかもしれない」と思うようになる人もいます。

ビジネスパーソンに必要なのはビジネスのノウハウだけではない

 ──QBSで学ぶ意義とは何でしょうか。

 高田 QBSはジェネラルマネジメント(一般的な経営管理手法)を学ぶビジネス・スクールで、03年の設立以来、とくに、アジアビジネスとMOT(Management of Technology:技術経営)の2つを軸としていましたが、15年に「育成すべき人材像」に言葉を追加するかたちで改訂しました。加わったのは「変革をリードする」「新たな事業価値を創造する」という2つのキーワードです。これまでのやり方を踏襲するだけでは成長も発展もなく、むしろ衰退の一途をたどるのみ。とくに、21世紀に入ってからは事業環境が大きく変化し、「どのように変革をリードしていくか」が経営者に求められるようになりました。そのなかで事業価値の可能性を見出し、実際に生み出していく。これこそ当校で育てるべき人物像だと考え、改訂に至りました。

QBSの授業風景
QBSの授業風景

 この改訂の後、九州大学内の他部局・センターとの間でさまざまな取り組みを行ってきました。そのなかの1つとして、デザインとビジネスとアントレプレナーシップが融合した教育を提供する専修トラック「DBEX」があります。学内で連携した取り組みを行っていくなかで、新しいビジネスの価値をつくるためにはデザインの力が効果的に働くことに気が付き、デザインの要素をビジネスに取り入れた教育の場を計画してきました。そして今年4月からスタートしたDBEXには、デザインを専門とする「芸術工学府(旧・九州芸術工科大学)」に加え、九州大学学部および大学院の全学生を対象としたアントレプレナーシップに関する総合的教育センターの「九州大学ロバート・ファン/アントレプレナーシップ・センター(以下、QREC)」が参画し、それぞれの要素を掛け合わせた教育プラットフォームとして走り出しました。

 ──企業の核となる「ビジネス」と外見を整える「デザイン」は、一見交わらないように感じます。

 高田 デザイナーはあらゆる事象において、そのかたちが何の意味を成しているのかを深く突き詰めて考えます。たとえば、ペン1本をとってみても、そのデザインは千差万別です。それらの1つひとつは「なぜこのペンが求められているのか?」「この利用シーンだとこのようなかたちであれば非常に使いやすい」と、その目的や使い方をデザイナーが考えた末に誕生するものです。つまり、デザインするとは「何か物事を生み出す際にその目的を深掘りして考える」ということで、デザインを生み出す人はその訓練経験をもつ人ということになります。そのため、デザイナーと組むことは、ビジネスを行うプレーヤーにとって非常に有意義となります。

 また、DBEXのもう1つの要素であるアントレプレナーシップで最も重要なことは、「機会(Opportunity)を見出すこと」です。どこに事業機会が潜在しているかを見出す能力もビジネスパーソンには必要不可欠で、DBEXは「デザイン×ビジネス×アントレプレナーシップ」という3要素をバランス良く学ぶことができる教育プラットフォームであり、全国的にも希少な取り組みだといえます。

 私を含めDBEXに関わる数名のQBS教員のゼミ(2年次)を合同とし、さらに芸術工学府とも協働することで、教育内容の融合だけでなく、バックグラウンドの異なる学生が融合できる新たなゼミのプログラムにも取り組んでいます。

 現在開講している合同ゼミでは、新しい事業創造の提案をチームで取り組ませ、半年後には投資家や専門家の前で発表するプログラムを行っています。このなかにスタートアップの萌芽があれば、それは喜ばしい限りです。ただ、ゼミに入らずとも、アントレプレナーを志向する素地をもつ人はいます。そのような人たちは我々の目標とする人材像に対して強く共感してくれる傾向にあり、「自分がビジネスを興すなら?」という視点を常にもったうえで科目を履修します。その結果として、在学中または修了後に起業に至るということが、最近起こるようになってきたと感じます。

(つづく)

【文・構成:杉町 彩紗】


<プロフィール>
高田 仁
(たかた・めぐみ)
九州大学工学部卒業後、大手メーカーに勤務。同大学院工学研究科修士課程修了後、コンサルタント会社で学術研究都市やサイエンスパークなど地域計画の立案に従事した。1999年から2002年まで(株)先端科学技術インキュベーションセンター(CASTI、現・東京大学TLO)取締役副社長兼COOを務めた後、03年に九大ビジネス・スクール(QBS)助教授に就任(07年に准教授に名称変更)。同10月から10年まで同大知的財産本部技術移転グループリーダー、05年から10年まで総長特別補佐を兼務。09年から翌年まで米国MIT(マサチューセッツ工科大学)客員研究員。10年から九大ロバート・ファン/アントレプレナーシップ・センター(QREC)兼務。14年から教授、15年からQBS専攻長。19年からQRECセンター長を兼務。20年からは再びQBS専攻長、九大副理事(産学官連携、リカレント・アントレプレナーシップ教育担当)、RTTP(国際認定技術移転プロフェッショナル)に就任した。

(後)

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