2024年04月25日( 木 )

日本M&AセンターHD、契約書偽造もトップに反省の色なし(前)

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 会社の経営を後継者に引き継ぐ事業継承が差し迫った課題になっている。国は経営者の年齢が70歳を超えても後継者のいない中小企業が25年に127万社に達すると試算。廃業する会社が増えれば、25年ごろまでに約650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われる。いわゆる「2025年問題」だ。この状況を後押しするかたちで、破竹の勢いで成長しているのがM&A仲介会社だ。だが、問題は少なくない。リーディングカンパニーである日本M&Aセンターホールディングス(東証プライム上場)は「イケイケドンドン」の勇み足が目立つ。

M&A仲介協会の代表理事が引責辞任

印鑑 イメージ    M&A仲介の業界団体、(一社)M&A仲介協会(東京都千代田区)が、今年4月の本格活動を前に、冷水を浴びせられた。3月1日付で三宅卓代表理事(日本M&Aホールディングス社長)が辞任し、後任に荒井邦彦理事(ストライク社長)が就いたのだ。

 M&A仲介協会は昨年10月に設立された。中小企業の事業継承を中心とするM&A(合併・買収)の市場は急拡大しているが、なにかと問題が少なくない。トラブルを抑止するため、業界の品質向上に向け自主規制団体を立ち上げ、コンサルタントの育成支援や苦情相談窓口の開設などを始める。

 協会を立ち上げたのは東京に本社を構える(株)日本M&Aセンター(三宅卓社長)、M&Aキャピタルパートナーズ(株)(中村悟社長)、(株)ストライク(荒井邦彦社長)の3社と、大阪の(株)オンデック(久保良介社長)、名古屋の名南M&A(株)(篠田康人社長)のM&A仲介大手5社だ。代表理事にはM&A仲介ビジネスの草分けで業界トップの日本M&Aセンター三宅卓社長が就いた。同社は10月に持株会社体制に移行し、(株)日本M&Aセンターホールディングス(HD)の子会社となった。

 5社はいずれもM&Aコンサル会社だが、大手企業の事業拡大・再編のM&Aではなく、後継者が決まっていない中小零細企業の事業継承型M&Aをターゲットにしている。

 だが、本格的な活動を始める目前に三宅卓代表理事が引責辞任に追い込まれた。母体である日本M&AセンターHDで、業界の宿痾というべき不祥事が発生したからだ。

売上を不正計上していた

 朝日新聞デジタル(2月14日付)は「署名コピペで契約書写し偽造→売り上げ計上 日本M&AセンターHD」の見出しで報じた。引用する。

 〈M&A(合併・買収)仲介大手の日本M&Aセンターホールディングスは14日、成約前の仲介業務の契約書の写しを偽造するなどして売上高を一時的にかさ上げする不正が多数あったと発表した。約80人が計83件の不正に関与し、大半が2020年度以降に発生。厳しい目標設定が背景にあるとみられる〉

 〈外部弁護士らによる調査報告書によると、報酬が出ていない仲介案件が成約したかのように装って売上を計上していた。顧客の署名や印鑑をコピペ(コピー&ペースト)するなどして契約書の写しを偽造。不正の多くは部長らが指示したり了解したりしていた。83件のうち13件は成約に至らず、報酬が入らなかったという〉

 21年12月に問題が明らかになり、外部の弁護士とともに調査。売上高の不適切計上で、21年3月期の純利益を7億3,600万円下方修正した。

 関連して役員の処分を発表した。三宅卓社長は報酬減額と自主返納を合わせて任期満了まで月額報酬がゼロ。他の取締役も10~15%の減額となる。

隠語を使った組織ぐるみの不正

 日本M&Aセンターの不正会計は、本来、成約してから計上すべき売上を社内の営業目標のために成約前に計上していたというものだ。売上計上の社内承認を行うため、売り手や買い手との間で取り交わす契約書を偽造し、前倒し計上を行うよう部下に命じている部門長が複数いたことも発覚した。

 調査報告書によれば、過去、5年半の不適切報告は延べ152件。そのうち、約半数の79件が「戦略統括事業部」で起きていた。組織ぐるみで行っていたのだ。

 『週刊文春』(3月17日号)は、日本M&AセンターHDの現役社員の訴えを載せている。

 〈「部を管掌する竹内直樹常務取締役(当時)は、強引な取り立てや過剰融資が社会問題となったSFCG(旧・商工ファンド)元幹部で、数字には非常にシビアです。13年以上トップに座る三宅卓社長の覚えもめでたく、役員報酬も1億円を超えている。調査委の聴取には『知らなかった』と関与を否定していますが、竹内氏のプレッシャーが不正を招いた面も大きいのです」(現役社員)

 上司からノルマ達成を求められた多くの営業マンは、不正行為を「ベタベタ」や「チョキチョキ」などの隠語で表現していたという。

 「こうして罪の意識が薄れていったわけですが、報告書では隠語について指摘されていない。三宅氏や竹内氏らの”ノルマ主義”という本質的に問題に踏み込めていないのです」(同前)〉

(つづく)

【森村 和男】

(中)

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