2024年04月19日( 金 )

“アート思考” でとらえ直す都市の作法(5)

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高層の木造建築物

 木造骨組みの大きな建築物の建設は7000年前の中国にさかのぼり、1400年前に建立された法隆寺もその一例だ。法隆寺は地震の脅威と湿度の高い環境を耐え抜き、現存する最古の木造建築物に数えられる。

 産業革命以後、鉄とコンクリートが建築を支配した。木材の使用はそれまでより格段に減少し、主に戸建住宅や低層建築物に使うものに格下げされることになった。現代都市の建設イメージは、ビルの屋上で鉄骨を釣り上げるクレーンだ。しかし、それが今変わり始めている。

 今日、都市の高層建築物がほぼ完全に木材で建設され、その過程で炭素を大幅に隔離する事例が出てきている。これら高層の木造建築物はすべて、大きな木製の梁、モジュール、パネルでつくられており、その多くはプレハブ材かプレカット材で、現場で巨大な組み立て家具のように組み立てられる。つまり工期が短くなり、コストが下がり、建設現場につきものの、廃棄物や騒音、車両の出入りを大幅に削減できるということだ。

T3 Bayside 北米全土でもっとも高い木造オフィスビル
T3 Bayside 北米全土でもっとも高い木造オフィスビル

鉄より強い木

 木造建築には2つの重要な利点がある。まず、木は成長するにつれて二酸化炭素を吸収して炭素として隔離し、その炭素は建築材料になった後の材木にも蓄えられている。乾燥木材の50%は炭素だが、もちろん木材が使われている間は、その炭素は封じ込められている。

 もう1つは、こうした建築材料の生産過程で排出される温室効果ガスは、木材の代替品を生産するより少ないという利点だ。コンクリートなどの建築材料に使われるセメントは、排出量世界合計の5~6%を占める。鉄も同じくらい多く、鉄製の梁の製造には集成材の製造より6~12倍多い化石燃料が必要になる。

 さらに、木造建築の寿命が尽きた場合、その部材は別の建物に再利用したり、堆肥化したり燃料にしたりもできる。イエール大学の2014年の調査によれば、建築物を木造建築にすると、世界全体の二酸化炭素の年間排出量が14~31%も削減できるという。建設現場の近くから地元の木材を調達すれば、輸送の排出量とコストも抑制できる。

 直交集成板(CLT)と呼ばれるパネル技術がオーストリアで登場したのが1990年代、その強度と耐久性から「新しいコンクリート」と言われてきた。鉄は火で曲がるのに対し、木材は外側が中を守るために炭化し、内部構造は完全に保たれるのだ。木材消費大国の日本が、世界一の木材技術大国になれるか――。CLTがもたらす新しい可能性にも注目していきたい。

新しいコンクリート“CLT”
新しいコンクリート“CLT”

松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡 秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。

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