“アート思考” でとらえ直す都市の作法(5)
-
高層の木造建築物
木造骨組みの大きな建築物の建設は7000年前の中国にさかのぼり、1400年前に建立された法隆寺もその一例だ。法隆寺は地震の脅威と湿度の高い環境を耐え抜き、現存する最古の木造建築物に数えられる。
産業革命以後、鉄とコンクリートが建築を支配した。木材の使用はそれまでより格段に減少し、主に戸建住宅や低層建築物に使うものに格下げされることになった。現代都市の建設イメージは、ビルの屋上で鉄骨を釣り上げるクレーンだ。しかし、それが今変わり始めている。
今日、都市の高層建築物がほぼ完全に木材で建設され、その過程で炭素を大幅に隔離する事例が出てきている。これら高層の木造建築物はすべて、大きな木製の梁、モジュール、パネルでつくられており、その多くはプレハブ材かプレカット材で、現場で巨大な組み立て家具のように組み立てられる。つまり工期が短くなり、コストが下がり、建設現場につきものの、廃棄物や騒音、車両の出入りを大幅に削減できるということだ。
鉄より強い木
木造建築には2つの重要な利点がある。まず、木は成長するにつれて二酸化炭素を吸収して炭素として隔離し、その炭素は建築材料になった後の材木にも蓄えられている。乾燥木材の50%は炭素だが、もちろん木材が使われている間は、その炭素は封じ込められている。
もう1つは、こうした建築材料の生産過程で排出される温室効果ガスは、木材の代替品を生産するより少ないという利点だ。コンクリートなどの建築材料に使われるセメントは、排出量世界合計の5~6%を占める。鉄も同じくらい多く、鉄製の梁の製造には集成材の製造より6~12倍多い化石燃料が必要になる。
さらに、木造建築の寿命が尽きた場合、その部材は別の建物に再利用したり、堆肥化したり燃料にしたりもできる。イエール大学の2014年の調査によれば、建築物を木造建築にすると、世界全体の二酸化炭素の年間排出量が14~31%も削減できるという。建設現場の近くから地元の木材を調達すれば、輸送の排出量とコストも抑制できる。
直交集成板(CLT)と呼ばれるパネル技術がオーストリアで登場したのが1990年代、その強度と耐久性から「新しいコンクリート」と言われてきた。鉄は火で曲がるのに対し、木材は外側が中を守るために炭化し、内部構造は完全に保たれるのだ。木材消費大国の日本が、世界一の木材技術大国になれるか――。CLTがもたらす新しい可能性にも注目していきたい。
<プロフィール>
松岡 秀樹(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?
福岡のまちに関すること、再開発に関すること、建設・不動産業界に関することなどをテーマにオリジナル記事を執筆いただける方を募集しております。
記事の内容は、インタビュー、エリア紹介、業界の課題、統計情報の分析などです。詳しくは掲載実績をご参照ください。
企画から取材、写真撮影、執筆までできる方を募集しております。また、こちらから内容をオーダーすることもございます。報酬は1記事1万円程度から。現在、業界に身を置いている方や趣味で再開発に興味がある方なども大歓迎です。
ご応募いただける場合は、こちらまで。その際、あらかじめ執筆した記事を添付いただけるとスムーズです。不明点ございましたらお気軽にお問い合わせください。(返信にお時間いただく可能性がございます)関連キーワード
関連記事
2024年4月8日 14:102024年4月3日 15:002024年4月1日 17:002024年4月18日 10:452024年4月15日 17:202024年4月5日 17:402024年4月18日 10:45
最近の人気記事
まちかど風景
- 優良企業を集めた求人サイト
-
Premium Search 求人を探す
- 業界注目!特集
-
産廃処理最前線
サステナブルな社会を目指す
- MAX WORLD監修
-
パーム油やPKSの情報を発信
パームエナジーニュース