2024年04月20日( 土 )

“アート思考” でとらえ直す都市の作法(5)

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ゼネコンの「脱請負」

 江戸時代や明治時代に創業した老舗を中心に、ゼネコンは日本全土のインフラ構築を一挙に担ってきた。競争激化を背景に、低採算工事を請けざるを得ない局面がここ数年ますます増えているなか、建築業界では再開発工事、土木業界では国土強靭化関連工事が依然底堅く推移している。しかし今後は、少子高齢化等を背景に新築工事が減少する時代に入る。環境保全もまた重要課題だ。

 ゼネコン各社には、これまでのように待ちの姿勢で工事を請け負うのではなく、戦略的に成長領域を見極めていかなければ、やがて行き詰まっていくだろうという危機意識がある。だからこそ、新たな収益源を求めて新領域の開拓に力を注いでいる。その筆頭が、再生可能エネルギーに関わる事業だ。清水建設は洋上風力、大林組は地熱エネルギーを電力に変え、その電力でつくるグリーン水素の出荷を開始した。大成建設は20年11月に「リニューアル本部」を設立。オフィスビルや道路、橋梁といった建造物の修繕・建替え工事の獲得に力を入れている。

洋上風力発電
洋上風力発電

 前田建設工業などを傘下に置くインフロニア・ホールディングスは、「日本の建設業は成熟した。氷河期に向かっている」「インフラの上流から下流までワンストップでマネジメントする総合インフラサービス企業を目指す」といい、「脱請負」を掲げる(“脱請負”は建設事業をやめるわけではなく、その領域を含めた広い価値提供のことを指す)。

【まとめ】 “公共”を再構築する

 パリの建物の外観はそろっている。それぞれ違う建築家と住み手、デベロッパーがつくっているにもかかわらず、「窓のデザイン」「屋根の勾配」「ライン」「壁面」など皆法律で規制され、そろっている。だから町並みには統一感があり美しい。

 それでは、建物のなかも同様かというと、住む人によって内部はまったく違っている。百年も前に建てられたものなのに、内部は超モダンな部屋もあるし、クラシックに統一された部屋もある。奇麗にしている部屋もあれば、あまり構わず汚いままにしている部屋もある。

 フランス人にとっては、建物の外観は街のもの、全体のものだから、そのために周囲とそろえるが、建物のなかは「自分のものだから自由にする」という発想なのだ。合わせるところは全体や周囲と合わせて、自分の個性を発揮するところでは、思う存分に個性を発揮している。

 ところが、日本人は「個性」というと、何でもかんでも自分の想い通りにすることだと勘違いしている。そのため、周囲と合わせて調和を図らなければならないところでも、それを嫌がって、自分の家だけはちょっと違うかたちにしてみたり、屋根の色を変えるようなことをしたがる。それでいて、家のなかはどうかというと、これが不思議とどの家もほとんど同じなのだ。

ルイス・カーン


 かつてルイス・カーンが言おうとしていたことは、「自分以外の他人や過去は変えることはできない、どうすることもできない。でも、他ならぬ自分と未来に関しては“どうにかできる”」という言い方ともとれる。

 日本人の「個性」とは何だったのか、日本にとっての「公共」はどんなものだったのか――。内発的な関心興味からスタートして、自らの触覚で課題を手繰り寄せ、“自分なりの答え”を見出してみてほしい。歴史を振り返ることで、都市という探究社会の歩みを一歩進められることに役立てられれば、嬉しいかぎりである。

日本人の公共性とは
日本人の公共性とは

(了)


松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡 秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。

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