2022年08月14日( 日 )
by データ・マックス

カンヌ国際映画祭とウクライナ戦争、そして世界の平和(前)

ユナイテッドピープル(株)
代表 関根 健次 氏

カンヌ映画祭 国際見本市「マルシェ・ドゥ・フィルム」    カンヌ国際映画祭は、世界で最も権威のある映画祭の一つで、1946年よりフランス南部のコート・ダジュール沿いの都市・カンヌで開かれている。世界三大映画祭にも数えられており、同時開催されている映画の国際見本市「マルシェ・ドゥ・フィルム」もまた、世界最大規模のマーケットだ。初夏5月の気候の良い南仏に、世界中から映画俳優、監督、プロデューサー、バイヤーが集まり、この時期のカンヌは熱気に包まれる。

 私は先月、縁あって「マルシェ・ドゥ・フィルム」に参加してきた。

カンヌ国際映画祭    正直な所、これまで私はカンヌ国際映画祭に行くのを避けていた。当社「ユナイテッドピープル」は、華やかな世界とは無縁のドキュメンタリー映画の配給・制作をしているので、カンヌで社会派映画の発掘などできるはずがないと思いこんでいたからだ。しかし、初めて行ってみると想定外の収穫があり、どちらかというとすっかり魅了されてしまった。

 当社が映画事業を始めたのが2009年だから、実に映画事業を開始して13年目で、世界で最も権威のある映画祭の一つであるカンヌ国際映画祭に初参加した。なお、今回は新型コロナ発生後、初めて規制が撤廃されての開催。また、同じヨーロッパでウクライナ戦争が勃発するという危機的な状況下で開催される、ある意味、特別な映画祭となった。

映画祭で感じ取ったウクライナ支援の雰囲気

 「とにかく一度は行ってみよう」と考え、ほぼ何も期待せずに行ってみたのだが、案外ドキュメンタリーを扱う業者が出展していたのは嬉しい誤算で、ドキュメンタリー関係者のための特設コーナーまで設置されていた。そのため、想定以上に多くの商談を行うことができた。

 ある晩、商談が終わって外に出てみると、なにやら騒がしい。大変な人混みで、カメラを構える人々やテレビカメラがレッドカーペットに熱視線を送っていた。

カンヌ国際映画祭    「これがカンヌか」と遠目から観ても、熱気に圧倒されたが、レッドカーペットよりも関心があったのがウクライナだった。ウクライナ国営映画社(Ukrainian State Film Agency)がパビリオン出展していたので立ち寄ってみると、壁一面に「#StandWithUkraine」という文字が書かれたウクライナ国旗色の壁紙が張られており、ブースのテーブル上には支援を呼びかけるたくさんの缶バッジやポストカードが並べられていた。私は、寄り添う気持ちを伝えることぐらいしかできなかったが、ブースの女性に話しかけてみた。

カンヌ国際映画祭 ウクライナ国営映画社(Ukrainian State Film Agency)

 話してみると彼女は、映画監督で、最近映画を完成させたばかりだという。彼女の友人は、まだウクライナに残っているそうで、心配そうな表情を浮かべていたのが印象的だった。話の最中に突然アメリカパビリオンの方がきて、「ウクライナのために明後日パーティーをするからきて!あなたたちを招待するわ!」と言って、颯爽と去って行った。このようにウクライナ支援の輪が映画関係者の間で有機的に広がっていく様子をうかがい知ることができた。また、他国のブースにも、ウクライナ支援を表明するピンバッジやポストカードが置かれていた。

 今年の映画祭ではロシアからの公式代表団や政府関係者の受け入れを拒否する声明が出され、ウクライナの映画人や国民への支援を表明している。また、マルシェ・ドゥ・フィルムでは「ウクライナ特集」も組まれていた。

 今回、初めて知ったのだが、そもそもカンヌ国際映画祭は、1939年にファシズムやナチズムに反発して生まれたのだそうだ。先の声明では、こう締めくくられている。

 「1939年、ファシストとナチスの独裁に抵抗して始まったその歴史に忠実なカンヌ国際映画祭は、平和と自由を守ることを主目的として、暴力、抑圧、不正を告発する声を挙げるアーティストや業界関係者のために常に奉仕していきます」

 こうしたカンヌ国際映画祭の姿勢には感動させられた。

 国民を扇動するためにナチスが映画を徹底的に利用したことはよく知られている。国民啓蒙・宣伝大臣だったヨーゼフ・ゲッベルスは、こう述べている。

「我々は、映画が大衆を動かすためのもっとも近代的なもっとも広範な手段であることを確信している。それゆえに、為政者は断じて映画を放任してはいけない」
(「ヒトラーと映画」岩崎昶著)

 映画には人々の心にメッセージを届けて行動を促すなど、人生に影響を与える絶大な力がある。だからこそ、扱い方次第で、戦争を助長することも、平和に導くこともできる、いわば「諸刃の刃」なのだ。

(つづく)

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