2024年05月04日( 土 )

【脊振の自然に魅せられて】タンナサワフタギと感動の出会い

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 脊振では春から夏にかけ、白い花を付けた樹の花(花木)が咲く。

 ムシカリ(オオカメノキ)、ヤブデマリ、ハイノキ、オトコヨウゾメ、ゴマギ、ガマズミ、カマツカ、ヤマボウシ、ネジキなどである。山中に自生しているこれらの樹は、数年に一度のサイクルで、たくさんの花を咲かせる。

 灌木ながら枝全体に花を付けるタンナサワフタギが咲いた姿は見事である。5年前の梅雨、雨上がりの縦走路を歩いているとブナ林のなかに白い花を付けた樹が目に飛び込んできた。その樹は、ブナと仲良く霧のなかに浮かんでいた。

 縦走路から息をのむ様に撮影した。さらにミヤコザサのなかを濡れながら5mほど近づき撮影した。帰宅して調べてみるとタンナサワフタギと分かった。

霧の中、縦走路に佇んでいた(2017.6.11 撮影)
霧の中、縦走路に佇んでいた
2017.6.11 撮影

 この光景が忘れられず、梅雨の季節、何度もこの場所を訪れた。樹の特徴を知り、脊振一帯に数多く自生していることを知った。

 毎年歩いたが、この日のような感動の出会いはなかなか訪れなかった。なぜなら毎年、たくさんの花を咲かせてくれないからである。

 6月初め、別の場所でタンナサワフタギの開花状況の下見をした。この樹は直径15㎝程の幹に縦筋をつけている。背丈は10mほどであり、群生はしていない。見慣れると、この樹であるとわかるようになった。

 そろそろ花を付けているころかと、小雨のなか、自衛隊道路経由で脊振山駐車場に車で向かった。駐車場は一面霧で覆われ、誰もいないため静かだった。

 時おり小雨が降ってきたので、雨具をつけ、長靴を履く。ザックを背負い、カメラが濡れないように雨具のなかに入れて歩いた。脊振山から蛤岳方面への長い階段を降りる。15分程登山道を歩くと、秋になると紅葉が見事な場所にタンナサワフタギが点在している。

霧のなか、5年ぶりにたわわな花を咲かせたタンナサワフタギ(2022.6.8撮影)
霧のなか、5年ぶりにたわわな花を咲かせた
タンナサワフタギ
2022.6.8撮影

 強風で大きな樹も揺れていた。白い花を枝いっぱいに付けた樹がスズタケの奥で揺れていた。タンナサワフタギである。1週間前は咲いていなかったのに、たくさんの花を咲かせていた。開花の読みはぴったりであった。

 動画撮影用の小型動画カメラを手に、時々倒木につまずきながらスズタケの中を進む。半年前に買ったこの小型動画カメラの扱いにまだ慣れていない。動作中の赤い点滅ボタンを確認し、祈るような気持ちで動画撮影を続けた。

 撮影を済まし、登山道に戻り、下見をしていた場所に進む。背の高いスズタケのなか、タンナサワフタギがたくさんの白い花を咲かせていた。先ほどの樹より大きく、花の数も多い。

 この樹も強風に揺れていた。筆者の背丈ほどあるスズタケのなかをかき分け、この樹に近づく。1m四方の場所を踏みしめて撮影場所をつくる。三脚を広げて撮影を開始。小雨が降っているため、ファインダーもよく見えないし、カメラのピントが合っているかどうかも分からない。とにかくデジタルカメラで撮影し、その後、小型動画カメラの撮影もした。振り向くと後ろにも白い花をたくさん付けたタンナサワフタギがあった。

 この場所での撮影を済ませ、駐車場へと戻る。視線が変わったことで分かったのは、歩いてきた道はタンナサワフタギの小径であったということだ。

 コーヒーを飲み終え、真下にあるキャンプ場へ降りてみた。キャンプ場周辺も白い花が強風で揺れていた。白い花はすべてタンナサワフタギであった。そばにある小さな池へと歩いてみた。今まで聞こえていたカエルの合唱が人間の気配を感じてピタリと鳴き止んだ。池の周辺もタンナサワフタギが咲いていた。池から遠ざかると、再びカエルの合唱が始まった。

 さらに九州自然歩道の木道へ進む。自然歩道のブナ林のなかで、タンナサワフタギがすべて開花していた。枝は雨露の重みで垂れ下がり、花が顔に触れそうであった。

 今年は脊振山系でタンナサワフタギが見事、一斉に開花し、5月はコバノミツバツツジ、ツクシシャクナゲも筆者の生涯で初めてと言っていいほど一斉に開花した。昨年はハイノキが一斉開花、白く小さな花が枝いっぱいに咲き、山を飾ってくれた。

青空に咲くタンナサワフタギ、霧のなかとは趣が違う
青空に咲くタンナサワフタギ、霧のなかとは趣が違う

 歩く度に脊振山系の素晴らしさに魅了される。花との出会いは一期一会である。

 動画は満足のゆく出来であった。後日、編集しyou tubeに投稿して仲間に感動を伝えた。

 花をめぐる山歩きは、いくつになっても辞められない。体力の続く限り歩いていたい。

「タンナサワフタギ」
ハイノキ科 タンナとは済州島のことである。サワフタギとは沢を蓋ようにたくさんの花を付けることが名前の由来。秋には青いきれいな実をつけると植物図鑑にあり。

タンナサワフタギの蜜を集める蜂
タンナサワフタギの蜜を集める蜂

2022年7月5日
脊振の自然を愛する会
代表 池田友行

関連キーワード

関連記事