2024年05月03日( 金 )

「未来に残る街・未来に残す街」東区多の津 福岡卸センター の将来に向けて(後)

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丸松セム(株) 取締役会長
八頭司 正典 氏
(協同組合福岡卸センター 名誉顧問) 

 

 福岡市東区多の津の福岡流通センター内の一角に位置する「福岡卸センター」。約7haの敷地には連棟式の建物が立ち並び、卸業の拠点として福岡市の発展を支えてきた場所である。しかし、開業から半世紀近くが経過して建物老朽化が進むうえ、流通構造の変化なども相まって、業務と建物の広さ・機能が合わずに効率の低下などの問題も生じている。こうした問題をいかにして克服しようとしているのか――。この地の趨勢をつぶさに眺めてきたセムグループの持株会社である丸松セム(株)の取締役会長・八頭司正典氏(協同組合福岡卸センター名誉顧問)に、話を聞いた。
(聞き手:(株)データ・マックス 代表取締役 児玉 直)

抱える不安材料、交通問題と建物老朽化

丸松セム(株) 取締役会長 八頭司 正典 氏
丸松セム(株)
取締役会長 八頭司 正典 氏

 ──行政の理解・協力も得られて順風満帆に思えますが、不安材料とは何でしょうか。

 八頭司 大きな不安材料は2つあり、「交通の便の悪さ」と「建物の老朽化」です。先ほども、この場所は福岡ICに近く、すぐ側には都市高速の多の津ICもあるなどアクセスに優れていると言いましたが、その一方で、従業員の通勤手段は車通勤に限られるといった状況で、公共交通機関による通勤には大変不便な場所です。というのも、鉄道の駅が近くにないのです。バスの本数も限られており、しかもその本数は年々減少するばかりです。

 そこで卸センターでは、当地域への鉄路導入を目指し、その第一歩として、JR長者原駅・福岡市営地下鉄福岡空港線の接続を要望する署名運動には全面的に協力しました。この署名運動には10万8,000人もの署名が集まり、昨年からは福岡県による調査が行われるなど、実現に向けた活動が継続しています。ゆくゆくはこれを、当地への鉄路導入へとつなげたいと思います。

 ──福岡市地下鉄空港線とJR福北ゆたか線の接続に関しては、先日、県による基礎調査の結果も明らかになっており、さらに検討が重ねられることと思います。ところで、建物の老朽化が課題とのことですが、当然、各社は建物の老朽化対策を講じられるのではありませんか。

 八頭司 ところが、建物が連棟式であることが老朽化対策を難しいものにしています。ご覧になられてわかるように、この地域の建物の約3分の2は連棟式の建物になっています。この連棟式は、設立当初は建設コストを抑えるためや、土地を有効活用するためなど、いろいろとメリットはあったのですが、建って20~30年ぐらい過ぎたころから、いろいろと問題が出てきました。

 たとえば、建物の老朽化の例を挙げるとすると、屋上の防水工事があります。連棟式建物は1つの建物が長屋のようになっていて、5~10社がその長屋の一部(連棟式建物)を区分所有しています。では、その1社で雨漏りが発生したとしましょう、その会社は当然ながら屋上の雨漏りの原因箇所を探し出し、屋上防水の改修工事を行います。しかし、雨漏りが止まらない。屋根も連棟でつながっているため、1つの建物の全所有者が同意して建物すべてを一斉に調査して補修しない限りは、雨漏りが止まらないのです。幸い原因箇所が見つかったとしても、今度は会社ごとの事情が異なり補修工事の話がまとまらない、防水工事の一斉工事がしたくとも行えない、といった問題も出てきます。これは屋根だけでなく、共有する水道設備や外壁の補修についても同様のことが言えます。

福岡卸センター(1974)
福岡卸センター(1974)
福岡卸センター(2011)
福岡卸センター(2011)

 ──するとこのままでは、補修工事が行えないまま、老朽化が進んでしまいますね。

 八頭司 おっしゃる通り、このままでは建物の老朽化が進むばかりです。10年先、さらに30年先を見据えた将来構想が、今の福岡卸センターには必要だということです。

 私が以前、協同組合福岡卸センターの理事長を務めていたときに、新たに綱領をつくったのですが、そのなかのスローガンで「未来に残る街・未来に残す街」と掲げました。また08年には、流通センター周辺地域住民の皆さまと一緒になって地域発展を進めようと、福岡流通センター地域街おこし協議会を立ち上げています。

 卸センターの皆さんには、「まちおこし」や「街の将来展望」があってこそ、企業の発展につながるという思いを伝えたい。そして次世代の若手経営者の皆さんには、「まちの発展が企業の発展につながる」ということを伝え、このまちの将来を託していきたいと思います。

卸センターの強みを生かし、新しいまちづくり構想を

 ──「街の将来展望」については、具体的に何か取り組まれているのでしょうか。

 八頭司 福岡卸センターの強みを生かした、新しいまちづくり構想の策定に取り組もうとしています。ただ、まだまだ基本構想の素案になるものを作成してスタートしたばかりですから、この素案を示して皆さまの意見を反映させるなど、これからさらに積み重ねが必要でしょう。

 まちづくりには、時間と手間暇がかかります。そして何より熱意が大切です。若手経営者の皆さんには、ぜひこのまちの将来に対する夢を語っていただいて、老朽化した福岡卸センターを新しいまちへとゼロからつくり上げるような、そんな大胆な将来像が描かれることを、私は期待したいと思います。

【文・構成:坂田 憲治】


<プロフィール>
八頭司 正典
(やとうじ・まさのり)
1941年生まれ、長崎県佐世保市出身。佐世保商業高校卒業後、大阪での丁稚奉公を経て、家業の丸松商店に入り、69年末に福岡市に進出。丸松セム(株)を中核とするセムグループを、一大企業グループへと育て上げた。社外活動でも数々の要職を歴任してきており、長年の功績が称えられて2019年に「令和元年春の褒章」で藍綬褒章を受章した。

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