2024年04月20日( 土 )

不動産下落で「伝貰(チョンセ)」制度のリスク増大(前)

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日韓ビジネスコンサルタント
劉 明鎬 氏

「伝貰(チョンセ)」とは

韓国 住宅街 イメージ    韓国には「伝貰(チョンセ)」と呼ばれる独自の賃貸システムがある。この制度はほかの国にはあまりないもので、韓国特有の住宅賃貸方式と言っても良いだろう。

 一般的な住宅の賃貸方式は、家を借りた対価として、毎月家賃を支払う(「月貰(ウォルセ)」)が、チョンセは賃貸契約時にまとまった伝貰金を払うだけで、契約期間中に家賃を一切支払わないシステムだ。だからといって、伝貰金が保証金というわけでもない。あらかじめ大家との間で居住する期間を決めておき、契約期間が終わって家を空ける時が来れば、全額返還される。

 チョンセ制度は一般人が金融機関からお金を借りることが難しかった時代に誕生した住宅賃貸と金融を掛け合わせた制度である。大家は家を賃貸する代わりに、テナントからまとまった資金を確保でき、テナントはお金を預ける代わりに、家を借りることができる。

 大家からすれば、月々入ってくる家賃についての心配をしなくてもよいし、その資金を運用することで、家賃収入より多くの利益を上げることもできる。借り主は毎月の家賃がいらない上に、引っ越しする際には預けた保証金が全額戻ってくるというメリットがある。

 このようにチョンセは、韓国社会ではマイホームを購入する前段階において、「飛び石」のような役割をはたす。また、チョンセは資産形成や都市の住宅問題の解決の一助となり、韓国の産業発展に寄与したとの評価も受けている。

 しかし、この制度にも「影」がある。住宅価格が値下がりすることで、預けた保証金を返してもらえなかったり、大家が事業に失敗して住宅が競売にかけられ、保証金が返って来なかったりするなどの事例が発生しているからである。

 チョンセには2つの側面がある。住宅価格が上昇する際は、資産が増加するが、住宅価格の下落時には、負債が増加して、大きなリスクを発生させる。チョンセが増加すると、テナントの負担は増加するし、チョンセが目減りすると、大家の保証金の償還能力が問われるようになる。

 チョンセという、まとまったお金を用意するのは、庶民にとって大変である。最近は住宅金融制度も整っており、借り手の負担を緩和するため、低利で融資もしてくれるので、チョンセは依然として需要があり、チョンセが住宅価格を上回る珍しい現象まで発生している。

 しかし、米国の利上げにより、金利負担が重くなり、チョンセは敬遠されるようになった。毎月家賃を払うウォルセの割合が韓国でも増加の一途をたどっており、ソウルでは、賃貸借契約における月貰の割合が半分を超え、過去最高水準を記録している。

(つづく)

(後)

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