2024年03月29日( 金 )

不動産下落で「伝貰(チョンセ)」制度のリスク増大(後)

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日韓ビジネスコンサルタント
劉 明鎬 氏

「伝貰(チョンセ)」が誕生した時代背景は?

韓国 住宅街 イメージ    韓国では、1970年代に産業化が急激に進み、農村から都市に移住する人が増えた。農村から都市に上京した人たちの手には、土地を売ったまとまったお金があった。そのお金を安全にキープしながら住宅問題を解決できる方法がチョンセであった。

 ソウルなど一部の大都市で行われたチョンセ制度は、全国的に広まっていった。チョンセは当初、1~2部屋を借りるためのものだったが、アパートなどが建設されることになって、家全体を貸し出すチョンセへと変わっていった。

 チョンセ制度は財産を増やすための手段としても脚光を浴びた。借り手からもらった保証金とアパートを担保に銀行から融資を受けるというかたちで、資産形成に勤しむ人が多くなったのである。

 韓国ではその当時、住宅金融が発達しておらず、チョンセは、まとまったお金を工面する方法の1つとして活用された。また、韓国経済の発展により、住宅価格は上昇を続けていたので、住宅の値上がりに対する期待感が大きく、チョンセは少ない金額で高い住宅を購入するレバレッジ機能もはたしていた。チョンセは高い利子と高騰する住宅価格がつくった「時代の産物」である。

韓国の若者がはまっている「ギャップ投資」

 統計によると、最近1年間に住宅を購入した「2030世代」(20代~30代の若い世代)の約半分は、ギャップ投資で住宅を購入したという。「ギャップ(GAP)投資」とは、チョンセの仕組みを活用した不動産投機の手法である。

 投資家はチョンセを当て込んでマンションなどを購入する。チョンセは物件価格の6~8割にもなるから、投資家は差額のみ自己資金やローンで賄えば済み、物件の価格上昇後に売却して差益を得る。

 ギャップ投資は少額で投資できることから取引が盛んに行われ、不動産価格を押し上げる要因になっているとの批判も浴びている。ギャップ投資のポイントは、住宅の売買価格とチョンセの差額が20%以下になることだ。ところが、最近のように住宅価格が下落すると、チョンセが住宅価格を上回るケースが発生する。そうすると、借り手はチョンセを返してもらえなくなるリスクが発生する。

 また、ギャップ投資は手元に資金がなくても、チョンセと融資だけで住宅の購入が可能になるので、無理をして住宅を購入するケースも増え、これが韓国の家計負債を増加させる元凶ともなっている。韓国政府でも、このようなギャップ投資を抑制するため、1年以内に住宅を売却する場合には70%の譲渡税を、2年未満の場合には60%の譲渡税を課す。

利上げで不動産市場は今後どのようになるのか

 米FRBが連続利上げを実施し、株式市場と不動産市場に逆風が吹いている。銀行の金利負担が急激に増えたことで、物件を手放す人も増えているが、不動産市場が冷え込んでいるだけに、価格を下げても買い手がつかない状況が続いている。韓国人の資産の約8割は不動産で占められており、不動産価格の下落は、韓国経済にとって何よりも大きなショックとなるだろう。

 不動産は、韓国経済において貧富の差を拡大させる要因ともなっている。不動産を買うための銀行融資により、世界で類を見ないほど家計負債が増加した現在、チョンセ制度、不動産への偏りなどをどのように解決していくのかに、韓国経済の将来がかかっていると言っても過言ではない。

(了)

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