2024年04月20日( 土 )

【ウクライナ・ボグダン氏】戦争でも市民が情報発信できる時代に(前)

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ボグダン・パルホメンコ 氏

 情報の発信の在り方が、変わっている。従来、戦争では大手メディアの特派員や戦争ジャーナリストのようなプロが現地に入り情報を発信してきたが、近年、通信技術の発達などにより、個人、市民としての立場で発信する人も現れた。ロシアのウクライナ侵攻を受け、日本語で情報発信をし、非常に注目される存在となったボグダン・パルホメンコ氏はその代表的な例だろう。

市民として戦争について情報を発信する

 ──2月のロシアのウクライナ侵攻前、日本のテレビ局にウクライナについて発信させてほしいと連絡を取ったそうですね。

 ボグダン・パルホメンコ氏(以下、ボグダン) 誤解を恐れずにいえば、以前から日本のメディアに対して、どちらかというとロシア寄りという印象を抱いていました。日本でロシア人のコメンテーター・芸能人やロシアの専門家の方々は多数いて、戦争が起きる直前に彼らがウクライナの意見を代弁して話しているのを見て、本来ウクライナ人が思っていることとズレがあることを憂慮し、ウクライナからウクライナ人が情報を発信する必要性を強く感じました。そこで、私はウクライナの歴史、バックグラウンドについて改めて振り返りまとめるとともに、日本のテレビ局の方々に、ウクライナにいる人間として日本で情報発信を望んでおり、興味があれば連絡を取らせてくださいとメッセージを送りました。

 最初に関西テレビが取り扱ってくれて、ほかのメディアに対しても、関西テレビの方が間に入って私とつないでくれました。当初はメディア出演を中心に情報発信を始めましたが、各メディアで求められることが異なるため、今届けたい情報を自由に届けることができるSNSでの発信を考えるようになりました。InstagramやYouTube「ボグダン情報局」などで発信を始めると、さらに問い合わせが増えました。

 メディアは良い意味でも悪い意味でもホットなニュースを取り扱いますよね。必然的にニュースの数が減っていくこともあるため、SNSで継続的な発信が必要だと感じています。

 6月6日、ウクライナのジャーナリストの日に行われたインタビューにおいて、ゼレンスキー大統領は、戦争が終わっておらず、市民が普通の生活に戻れていないなかで、ウクライナに対する興味が薄れ、報道数が減っており、メディアに携わる人が一丸となって継続して情報を発信し、ウクライナに対する人々の興味を持続させることが重要だということも話しています。

ボグダン氏(中央)
ボグダン氏(中央)

 ──近年、YouTuberとして市民の立場で情報発信をする人が増えていますが、ご自身の役割と取り組みについてどう認識していますか。

 ボグダン 私のような単なる市民が、戦争の状況に身を置きながら、情報発信をしているのは稀なケースだと思います。これは、たまたま私がこの場にいて発信を行い、サポートしてくれる日本のメディア、ウクライナ人がいたからできたことです。今後、どこかでまた今回のようなことが起きたとしてもパソコンがあり、ネットがつながっていれば、できることはあるという1つの事例になったと思います。ジャーナリストでもウクライナ政府関係者でもない私は、一国民というポジションだったからこそ、自由気ままにいろいろなことを日本の皆さまに発信できたともいえるかもしれません。

 見たい人、聴きたい人がいれば、そこで1つの世界が出来上がります。

ロシアの情報発信

 ──ロシアは侵略正当化のために、フェイクニュース発信により情報操作を行っていると受け止められています。

 ボグダン ソ連時代から行われてきたのですが、今注目されるのは、その情報操作が、大義名分が立たない、正当化ができないレベルになっているためです。プロパガンダには、約3割を書き換える「ホワイト」、約7割を書き換える「グレー」、あることないこと何でも報道する「ブラック」の3種類があります。ロシアの対ウクライナ・プロパガンダは、ホワイトで始まりグレーを経て、ブラックなものになっており、何が事実で何がそうではないか、現地にいる人にしかわからないレベルに到達しています。もっとも、メディアは基本的にプロパガンダのツールであり、書き換えのないメディアは存在しないと思っています。

 この情報操作を最も得意としていたのが旧KGBであり、それを継承して取り入れたのがプーチン大統領です。彼自身、情報を如何に発信すればメディアが信じるのかについてよく理解しており、うまく使っています。加えて、両国の報道の自由をめぐる違いが今回の事態をより特殊なものとしています。ロシアでは報道は閉鎖的でSNSも規制を受けています。一方、ウクライナは、現在こそある程度内容を政府により決められていますが、もともとはオープンで、市民は報道とSNSにおける発信を比較し、事実を見ようとした結果、ロシアから発信される情報について事実とそぐわない部分が浮き彫りになりました。

 私が日本向けに行っているように、ウクライナ人はSNSを使って世界に向けていろいろなところで情報発信をしています。これが今回の戦争のキーポイントです。ウクライナ人により今までのメッキが剥がされ、本質の部分がさらけ出されてしまいました。ロシアはウクライナ国民が国内で内戦をしているという印象をもたせようと報じていますが、事実と異なります。ウクライナは1200年の歴史のなかで一度も他国を攻めたことはありません。

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 私の発言が誰かにきちんと届いているとすれば、それは自分が実際に体験したことだけを発信しているからだと思います。軍事評論家の方がまるでご自身が現地にいたかのように、語られる場面もありましたが、実際ウクライナには入っていませんでした。現地にいない専門家の話だけがメディアで伝えられるのではなく、私は現地から事実を積極的に発信していき、見ている皆さんに何が真実なのかをご自身で考え、知る機会をつくっていけたらと思っています。

(つづく)

【茅野 雅弘】


<プロフィール>
ボグダン・パルホメンコ

1986年旧ソ連・ウクライナ生まれ。90年に日本に移住し、神戸市・大阪市で中学校卒業まで過ごす。キーウの大学を卒業後、三菱商事現地法人勤務などを経て、キーウにて化粧品輸入販売会社SEPA LLCを設立、経営を行っている。

(後)

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